サッカーには90分の中での試合の流れというものが必ずある。だから、対戦するどちらのチームもゲームプランを立て、その中で数多くの状況に対応するための準備を行うし、それでも想定外のうまくいかない時間は生じてしまうし、集中が途切れる時間もある。人間の集団が戦うスポーツであるからこそ、戦力の差や戦術の相性だけで単純に勝負が決まるシミュレーションゲームのようなものとは異なる。この試合を戦った横浜FC、それぞれに集中力が途切れる時間があったが、相手の集中の途切れをよりしたたかに突いた山形に勝利の女神が微笑んだ。
山形の奥野僚右監督が「アウェイの戦いの中なんですが、ホームのような感覚でゲームに入ることができた。多少、そういったところでホッとした部分があったり、相手に敬意を払う部分があったのが失点に繋がった」と振り返ったように、最初に集中を保てなかったのは山形。試合は最初のプレーから動く。左サイドで三浦知良からパスを受けた内田智也が絶妙のクロスを上げる。大久保哲哉のヘディングはクロスバーを叩くが、そのこぼれ球を武岡優斗が押し込み、横浜FCが先制する。1年半を怪我で棒に振り前節ようやく途中出場で復帰した武岡が自身で決めるお祝いゴールに、ニッパツ三ツ沢球技場は最初からヒートアップ。今シーズン未だに勝利のない横浜FCの暗雲を振り払うかと思われた。
その後30分ぐらいまでは、横浜FCのペース。山口素弘監督が口にする「躍動するサッカー」が具現化されるように、山形の4-3-3のワンボランチとDFラインの間のギャップを使い、何度もチャンスを作り出す。しかし、この山形側に隙のある時間を生かしてゴールまで至ることができないと、徐々に山形に本来の攻守のスタイルが取り戻されていく。横浜FCがボールを持つとボールサイドに人数を掛けてプレスを掛けていき、ボールを奪うと3トップが相手DFラインとの駆け引きを常に繰り広げる。試合の流れがイーブンに戻ってくる中で、横浜FCが一瞬の集中を切らせた43分、ロングボールを受けた秋葉勝が、横浜FCのDFとGKのコミュニケーションミスをを逃さずゴール右隅に流し込んで同点とする。常に裏を狙う山形の3トップとの駆け引きの中で、一瞬の隙を作ってしまった横浜FCと、それを見逃さなかった山形の差が生んだゴール。前半終了間際という「良い時間」での同点ゴールが、後半の試合の流れを形作っていく。
後半の立ち上がりからは、その流れに乗る形で山形が試合を支配。特に中盤でのプレッシングが見事にはまり出す。横浜FCは、このプレスへの対策としてサイドチェンジを意図してゲームに入っていたが、そのサイドチェンジもパスが細かくずれて思い通りにならない展開となった。横浜FCは、56分に永井雄一郎を投入、4-3-3にシステムを変更し、なんとかプレスをかいくぐろうとするが実らず。逆に交代直後の58分に、宮阪政樹がスローインから受けたボールへのプレッシャーがない場面で、鮮やかなミドルシュートをゴール右隅に突き刺して逆転に成功。スローインという集中が途切れる可能性のある場面で、一瞬の寄せが甘くなった集中力が欠けた隙を見事に突いたゴールだった。その後、横浜FCは77分に野崎陽介、85分に田原豊を投入し、守備を固める山形に対してドリブルと高さでこじ開けに掛かる。残りの10分でシュート4本を放ち、決定的なチャンスも作るが、決めきれず。試合立ち上がりに隙を作り冷や水を浴びせられた山形が、横浜FCの隙を突いて逆転し、最後は冷静にしのぎきった山形が、3試合ぶりの勝利を挙げた。
横浜FCにとっては、前半の30分間の躍動、そして終了間際の10分間と、前向きに繋いで攻めていくスタイルがより強く出てきており、山口監督就任後のスタイルがピッチに表現され始めているのは確かだ。一方で、この試合での2失点は、守備面での集中力という詰めの甘さが解決されていないという現実も突きつけられることとなった。チーム自体は上向きになっていることは間違いないだけに、試合の1つ勝つことの難しさをこの試合から学び、次の神奈川ダービーでは同じ間違いを犯さないことが重要になる。
一方の山形は、「自分たちが慌てることなくゲームを作って得点をして、逆転できたということはチームにとって大きな成長」(奥野監督)というように、開始早々の失点で慌てることなく、自らでチームを立て直すことができたことが大きな収穫。ビハインドでも自分の流れに引き寄せる修正力、そして終盤のパワープレーにも冷静に対処できる対応力は、勝利に値する内容だったと言える。
桜が満開のニッパツ三ツ沢球技場で「サクラサク」を手にしたのは、これから桜前線がやってくる山形。天童市の桜の開花予想は、4月の中旬から下旬。山形のこれからの充実が予感される試合となった。
以上
2012.04.09 Reported by 松尾真一郎
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