勝負は2点をリードして迎えた57分に決したと言っていい。直前の54分に實藤友紀が2枚目のイエローカードで退場したばかり。予選リーグ突破を目指す仙台が反発力を強めるのが確実な状況だった。
試合後に仙台の手倉森誠監督はこの試合の意味合いについて「予選リーグ突破に大きなゲーム」だと選手たちに話したと述べている。また「自力でACLを勝ち取るためのチームの総合力を高めるという位置づけ」の大会だったのだとも話している。地力をつけるためには1つでも多くの実戦を経験するに越したことはない。また入れ替わりで入った選手にしてみれば絶好のアピールの場でもある。だからこそ、予選リーグ突破のため数的優位を生かした仙台の猛攻撃が予想されていた。川崎Fにとって難しい時間が始まる。そうした試合展開が確実な中、小林悠が持ち味を見せた。
田坂祐介からのパスを受けた小宮山尊信から鋭いクロスが入ってきた。ニアポストに走りこんだのは小林。DFを引き連れながら右足のアウトでちょこっと合わせるシュートは、彼の持ち味が最大限に発揮されたものだった。
この試合、川崎Fは中村憲剛を体調不良で欠いていた。代わりにピッチに立った稲本潤一が素晴らしい働きでゲームをコントロールする。もともと定評のある1対1の局面での守備に加え、そのコーチングが素晴らしかったのだと複数の選手が証言する。
「イナさんが前の守備のしかたを指示してくれました。今日に関してはイナさんが入って前の選手を修正してくれて、やりやすかったです」と矢島卓郎。稲本自身も「前がレナトから日本人2人になって、サイドに移ったレナトのところは難しくなったが、FWの2人を(コーチングによって)動かしてレナトの負担を減らしていました」と守備面で司令塔となった自身の試合ぶりについて振り返る。
稲本の起用とともに、この試合を勝利で終えるための大きな役割を果たしたのが小林のFWでの起用だった。この試合、望月達也コーチはレナトをサイドハーフに移し、小林をトップで起用している。そしてこれが川崎Fの攻撃を活性化させた。試合を決定づけた57分の得点は、まさに小林をトップで起用した事によってもたらされたもの。またサイドにポジションを代えたことによりレナトの良さも引き出せている。
そもそも今季の川崎Fは、FWで起用してきたレナトをどう生かすのかで苦悩してきていた。中盤まで降りてボールを受け、そこからドリブルを開始するレナトのスタイルは、それによって攻撃のリズムが遅れ、必要なときにエリア内にそのレナト自身がいないという形が続いていた。そうした問題に対する回答として、レナトのサイドハーフでの起用はうってつけだった。すでに紹介した稲本のコメントにあるように、サイドでの守備に多少の問題が生じるが、それは周りがカバーすればいい。そうした考えに基づき、望月コーチが下した采配は川崎Fを変えた。田坂はこのポジションチェンジについてこんな言葉を残している。
「レナトは良かったですね。真ん中で出ていた頃は潰されるケースもあった。ただ、右サイドでプレーした場合、左足でキープされたら相手は奪えない。また、1人は抜くので、そこに相手がカバーに入る事で周りが空いてくる」
レナトがサイドに起点を作り、それによって結果的にスペースが生まれる。そのスペースに攻撃面での自由を与えられた中盤の選手たちが入り込み、攻撃を組み立てる。この循環により、あれだけ苦しんできた得点力が改善した。
ただ、仙台としては1人少ない相手に対し3点差のまま試合を終える訳にはいかない。たとえば3失点目を喫した直後の59分に交代でピッチに入った関口訓充は「3点目を取られ、リスクを取って行かないとダメになった。1点でも多く取らないと、という気持ちがあった」とその時の心境を口にする。1人少ない中、ダメを押した川崎Fと、得失点差を考えて1点でも返していきたい仙台。その心理的アンバランスが、次第に仙台のポゼッションを高めていく。
そうした試合展開の中、田坂は「退場者が出てから前にヤジさん(矢島)しかいなくなった。そこで判断しなくても良くなった」と話す。難しいことを考えず、とにかく守り切る事を最優先に考えることができたと話すのである。この点については稲本も「10人になってやり方が決まったところはある」と話している。ちなみにこの10人になってからの戦い方については西部洋平が「食いつくとやられるので、セカンドラインを作って、入ってきたら出ていくというのを徹底しました。何も言わず、そこは意思統一できました」と話しており、チーム内で自然に共通理解ができていたようである。能動的にピッチ内で戦術をコントロールする。見事と言うしかない。
試合終盤に仙台・武藤雄樹に1点を奪われて完封勝利こそ逃したが、前半のアディショナルタイムに奪った2得点と共に、合格点の付けられる試合だったのは間違いない。得点力を維持しつつ、失点を減らした戦いぶりと共に前向きに評価できる試合だった。ただ、すぐに試合はやってくる。この戦いをリーグ戦での浮上のきっかけにできるかどうか、注目したいと思う。
敗れた仙台は、手倉森誠監督の「リーグ戦に向けて、お灸を据えられたつもりでやっていきたい」と話した切り替えが出来るかどうかがポイントとなるだろう。前半の2失点について「集中力の問題」と断じた太田吉彰も「気を引き締めてリーグに向けて行くための、いいきっかけにしたい」と前を向いていた。メンタルコントロールの部分での手倉森監督の手腕をリーグ戦で見せてほしいと思う。
以上
2012.04.19 Reported by 江藤高志













