勝つための方法を見付けるまでに少し時間を要したが、答えが見付かった途端に３連勝を含む６戦無敗と、その勢いは首位を快走する湘南にも勝るとも劣らない。栃木は順位を７位まで押し上げ、プレーオフ圏内の６位も目前。さらに今週、主将パウリーニョの完全移籍がまとまり、ポジティブなムードがチームを包んでいる。今節の岐阜戦から怒涛の５連戦が幕を開けるが、先のことは考えずにもがき苦しみながら掴んだ良い流れを手放さないために、眼前の勝点３に全精力を注ぎたい。
「古巣だからといって自分ができることは変わらない。自分が求められていること、自分ができることだけに集中したい」
古巣・岐阜戦を前に昂ぶることなく、穏やかな表情でそう語る菅和範の言葉こそが、栃木が苦労して手にした答えに他ならない。どんな相手でも、どんな状況でも自分達のサッカーに自信を持ち、９０分やり切る。そうすれば望んでいるものが必ず付いて来るはずだ。

ここ数試合で成長を感じるのはメンタル面。「成長したと言うと落とし穴に入るだけ」と松田浩監督は慎重な姿勢を崩さないが、千葉に劇的な勝利を挙げた後の熊本戦、ルーキーという要素が気の緩みを招く危険性をはらんでいた町田戦と、２試合続けて序盤から主導権を握ることができた。また、劣勢に回っても動じることなく、嵐をやり過ごせるようにもなってきた。“耐久力”が身に付き、２試合連続無失点に繋がっている。

少し話が逸れたが、立ち上がりがスムーズだから気持ちが乗り、体もリズムを掴みやすい。「立ち上がりのサッカーの仕方は、はっきりしている。無理をせずに簡単にやるべきところが簡単に出来ている」とは棗佑喜。その棗の絶対的な空中戦の強さを有効利用できているからこそ、栃木は思い通りに試合を進められている。棗ならば競り勝てる。その信頼感が町田戦では追加点を生んだ。棗が競り、周囲が手厚くサポートし、一気にゴールに迫る。栃木の強みを最大限に活用出来れば、順位ほど試合内容の悪くない岐阜を攻略できるはずだ。

シンプルにゴールが奪えれば言う事無しだが、サッカーはそれほど簡単ではないし、４‐４‐２同士のマッチアップだけに使えるスペースは限られてくる。その中で、どれだけ揺さぶりをかけられるかがポイントになるだろう。金曜日のビルドアップのトレーニングでは、横幅を使いつつ縦方向にも上手くボールを動かせていたが、「今日は何の指示もしていない」と松田監督。つまり、指揮官が何も言わずとも、自然と空いたスペースを見出し、的確に突けていたのだ。急所を突く上で要となるのは菊岡拓朗。前節もサビアのゴールをアシストし、その数をリーグトップタイの３にまで伸ばしている。今節も絶妙なタッチからのパスに期待したが、本人は「ゴールが欲しい」と今季初ゴールに意欲的。背番号２８から目が離せない。

前節４連勝中の北九州に土を付け、ようやく結果が伴った岐阜。栃木が初勝利を挙げるためにメンバーを入れ替えたように、李漢宰を筆頭に行徳浩二監督も戦えるメンバーを選考して勝利を手繰った。李と服部年宏のダブルボランチが受けてさばく作業を惜しみなく行い、ボールの循環を良くしたことで前線の井上平、廣田隆治、山崎正登が躍動。また、チームとしてハードワークを貫けたことも勝点３を引き寄せる要因となった。連敗を４で止め、内容のある勝利を掴んだ流れが継続出来れば、初の連勝にも手が届くはずだ。

栃木にとって怪我人の数が思うように減らない頭痛の種は解消されないが、町田戦でベンチに入った選手は良い状態をキープしている。２ゴールのサビアはジョーカーとして計算できるし、パウリーニョは松田監督が先発起用も視野に入れるほど状態が上向き、久木野聡、荒堀謙次、杉本真はそれぞれが個性を発揮してアピールを繰り返している。持っているカードは少ないが、切れるカードはいずれも効果的。過密日程はチーム力が問われる総力戦だ。１１人では乗り切れない。定位置を奪い取るような野心を前面に押し出した、ギラギラした選手の台頭を期待したい。

以上


2012.04.21 Reported by 大塚秀毅