ハーフタイム、本間幸司の頭には昨年の試合のことが浮かんできたという。昨季第33節水戸対草津。前半、水戸が面白いようにボールをつなぎ、草津を圧倒。2点差をつける楽勝ムードで前半を終えた。しかし後半、捨て身の猛攻を仕掛けてきた草津に対して、水戸は受け身に立ってしまい、セットプレーから2失点を喫し、勝点1を分け合う展開となったのだ。「昨年と同じ過ちを犯してはいけない」。本間をはじめ、選手たちは気を引き締めて後半に向かった。
昨季の対戦を彷彿させるほど、前半は水戸が完ぺきな試合運びで草津を圧倒してみせた。立ち上がりの5分ほど草津のプレスに苦しんだが、それ以降は人もボールもスピーディーに動く華麗なパスサッカーで草津のプレスを翻弄し、再三チャンスを作り出した。
水戸の狙いは草津の右サイドであった。つまり、保崎淳のサイドである。昨季まで水戸に在籍していた保崎は攻撃を得意とするものの、守備に課題を残す。水戸の選手たちはそれを知り尽くしていた。保崎の前のスペースでボールを引き出し、ボールに食いついてきた裏のスペースに2列目の選手が走り込んでチャンスを作った。そして36分、保崎のファウルにより獲得したFK。橋本晃司が蹴ったボールはDFにクリアされるものの、こぼれ球を小澤司がシュート。GKがはじいたボールを塩谷司が押し込んで水戸が先制する。6試合ぶりの先制点を決め、勢いづく水戸。大量得点の予感すら漂った。
だが、ダービーはそんな一筋縄な展開で進むわけがなかった。昨季の嫌な思い出があるだけに気を引き締めて後半に挑んだ水戸であったが、草津ではなく、“度重なるアクシデント”に苦しめられることとなる。62分に鈴木隆行が相手DFを背負ってボールを受けようとした際に肘が相手の顔面に当たってしまい、一発退場。数的不利になっただけでなく、前線の起点を失ったことで水戸は苦しい展開を余儀なくされる。その1分後に草津の櫻田和樹がこの日2枚目の警告を受けて退場となり、数的同数となるものの、前線の“おさめどころ”を失った水戸はカウンター以外ボールを前に運べなくなる。自然と押し込まれる時間が長くなっていった。
さらに追い打ちをかけるように、それまで守備の要として草津の攻撃を封じ込め続けてきた塩谷が78分に負傷交代。前半の楽勝ムードは消え去っていた。だが、それでも水戸は慌てることなく、対応した。櫻田退場時、主審に食いかかる草津の選手たちをよそに、水戸の選手たちはベンチに指示を仰ぐのではなく、ピッチ上で話し合いを行い、戦い方を確認し合っていた。その結果、「1点リードしているので、無理に前線からプレスに行かず、バイタルエリアで厳しく守備をしようということができていた」と本間が言うように、チーム全体で守備の意思疎通が取れ、安定感は抜群だった。草津にチャンスらしいチャンスを与えないまま、逃げ切りに成功。ピッチ上の選手たちで判断しながら、戦い抜いて得た6試合ぶりの勝利。水戸の選手たちからたくましさがにじみ出ていた。
試合後、本間は「ダービーに勝てたことは本当にでかい。昨年2点追いつかれて悔しい思いがあっただけにリベンジしたい思いがあった。勝ててよかった」と顔をほころばせ、そして、「昨年の経験からしっかり上積みできていることを証明できた」とチームの確かな成長に胸を張った。前半に見せた華麗なるパスサッカーに加え、不慮のアクシデントが起きても動じない精神力と判断力を身につけつつあることを結果で示した。「1点では寂しい。2点、3点取りたかった」(ロメロ・フランク)という課題を残しつつも、水戸は前進している。
次節、首位湘南との一戦が待っている。鈴木隆不在という状況だが、「総力戦で勝つ」(橋本)と選手たちは闘志を燃やしている。北関東ダービーを制した勢いを持って、いまだ無敗の首位湘南に挑む。
草津はこの敗戦をどう受け止めるのか。0対1という最少得点差の敗戦だが、内容では完敗に近いものがあった。それを素直に受け止め、翌日から意識を変えて練習に取り組めば、チームは再び息を吹き返すに違いない。惜敗と捉えるのか、完敗と捉えるのか。それによって、草津の今後は決まるのではないだろうか。
以上
2012.04.23 Reported by 佐藤拓也
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