試合の序盤は強風の影響もあり、セカンドボールを奪い合う落ち着かない展開だった。しかし前半25分を過ぎたあたりから愛媛は大山俊輔やトミッチらがゲームを組み立て始めると、試合の流れを引き寄せた。最終的に、愛媛は前後半を通じて12本のシュートを放ったが、そのうち前半ならトミッチのミドルと浦田延尚のヘディング、前野貴徳のシュートがポストを叩く3度のビッグチャンスを迎えた。そして後半なら、序盤に前野がGKと1対1になった場面や有田光希が赤井秀一のスルーパスから抜け出した場面もあった。さらに、試合終盤には村上巧とのパス交換から有田がシュートを放った場面、さらには有田がつぶれ役になって東浩史が飛び込んだシュートの4本もビッグチャンスだった。愛媛は少なくとも、この7本のいずれかのシュートでゴールを奪い、勝利を収めてもおかしくないゲーム内容だったといえる。

しかし、いずれも熊本のGK南雄太やゴールポストに阻まれるなど、最後まで愛媛はゴールを割ることができなかった。「攻撃性や積極性が足りなかった。チャンスを作ったというよりも、チャンスにつながるシチュエーションを作って、そこでとまってしまった」とバルバリッチ監督は指摘をしたが、確かに先の7本以外にも、あと一歩で決定機につながる攻撃の流れはあった。クロスの精度を欠いた場面やファーサイド、もしくはニアサイドにもう1人いれば、というシーンもあった。

しかし、総じて見ればサイドから崩した場面、積極的にミドルシュートを狙った場面、あるいは中央からスルーパスやダイレクトパスで崩しにかかるなど、この試合での愛媛の攻撃は実に多彩。むしろゴールが生まれなかったのが不思議なほどの展開で、前節の草津戦と比較しても攻撃の質は向上していた。それだけに、運がなかったとあきらめざるを得ない部分もある。確かに、この内容で勝点1という結果は愛媛にとって悔しさの残るものだが、「これだけ支配をして攻撃を繰り返しても1点取られて負けることもあるが、幸いにも今日は失点をせず０−０で終えることができた」とバルバリッチ監督が語るように、最悪の結果に至らなかったと考えて、ここは気持ちを切り替えるしかないだろう。

逆に、そのバルバリッチ監督の言葉にもあるように、熊本にもゴールのチャンスはあった。前半は愛媛の高い最終ラインの裏を突いて武富孝介が抜け出したり、後半にはカウンターから片山奨典が抜け出して関根永悟のファールを誘った。さらに、藏川洋平の強烈な左足のシュートは愛媛のGK秋元陽太を襲った。「少ないタッチの動きもやっているが、それが出るときもあるし出ないときもある」と高木琢也監督は試合を振り返ったが、厚みのある攻撃ができる時間帯を長くするためにはこれを積み重ねていくことが大事。と同時に「負けなかったことはよかったが、勝たなければ流れを変えられない」と南が語るように、どんな形でも早く結果を出して上昇のきっかけをつかみたいところだ。しかしドローとはいえ完封で連敗を止め、守備陣にはこの試合で福王忠世や市村篤司が戻ってくるなど、次節以降の連戦に向けて明るい材料も得た。

愛媛にとっても熊本にとっても、すっきりと視界が晴れる結果とはいかなかったが、それぞれが課題に対する手ごたえも得た一戦。悔しさは残るが、これをばねにして次の試合につなげることで今の停滞を抜け出し、ゴールデンウィークの連戦では上位への足がかりを得たい。

以上

2012.04.23 Reported by 近藤義博