泥臭く、しかし美しく。Ｊリーグ1年生が、“オリジナル10”の名門を相手に、粘り強い戦いで勝利を飾った。

「自分が決められなかったことが全て。（松本は）全員がハードワークしていた」。試合終了後、深井正樹は強張った表情で話した。千葉はもちろん松本を軽く見ていたわけでもないだろうが、ある程度勝点3を計算して、アウェイの地に乗り込んだに違いない。逆に松本の選手たちは「攻め込まれる時間が増えると想定していた」（飯尾和也）、「格上の相手。守備の時間は長くなると覚悟していた」（多々良敦斗）と口を揃えるように苦戦は免れないと予想していた。スタッツを見れば、松本のシュート数が11本に対し、千葉は15本。大きな差がついたわけではないが、やはり分は千葉にあったゲームだった。

では、勝敗の分かれ目はどこにあったか。やはりキーワードは『泥臭さ』となろう。
ここ最近の松本は、開幕直後に見られていた硬さが徐々に影を潜め、ようやくJ2の水に慣れ始めていることは確かだ。特に84分の得点シーンは「あそこにアツ（多々良）が残っていたのは分かっていた」という鐡戸裕史の視野の広さと、「トラップが前に行ったので打つしかないと思った」という多々良の判断の早さとが噛み合って生まれた、必然のゴールだった。
しかし、決定力は一朝一夕につくものではない。事実、スピードで千葉ディフェンスの裏を取った船山貴之と、サイドからのクロスにドンピシャのタイミングで反応した塩沢勝吾がそれぞれ持ち味を発揮して決定機を作ったものの、得点には至らなかった。

少なくとも千葉の選手たちとは個人能力で差があると言わざるを得ない松本が、J2という舞台で他チームと伍していくには、どうするべきか。
そこがまさしく『泥臭さ』だ。最前線からチェイシングして千葉に自由にボールを回させない戦いが奏功し、保持される時間こそ長かったものの中盤から前へと運ぶことが出来ずに、攻撃は深井とレジナルドのサイド突破に頼ったものとなった。しかし良いクロスが上がっても、松本の最終ラインが集中を切らさずに藤田祥史をマークし、その動きを消すことに成功したことで、木山隆之監督が「もう少し深く切り込んでマイナスのクロスを上げるとか、2列目が入るとか（して欲しかった）」と唇を噛むも、結果的にリズムは作りながら主導権を完全に掌握しきれないまま、時間が経過してしまった。中盤の底でビルドアップ出来る佐藤勇人の不在は大きかったかも知れない。

5バックの形になりながら最終ラインをケアして、ボールを奪取すれば素早いカウンターで千葉デイフェンスラインの裏を突く。シンプルなサッカーを90分間貫き通し、遂には一瞬生まれた隙を見事に生かした。チームとしての経験と能力の差をハードワークで埋め、スピードに優れた田中佑昌、圧倒的な高さを誇るオーロイを投入し、最後まで勝利を狙った千葉の攻撃を防ぎきった。

愚直に、どのチームよりもユニフォームを汚すその戦いぶりは確かに泥臭い。しかし、選手全員が集中を切らすことなく自分たちの役割を全うしたその姿は、間違いなく美しかった。

以上

2012.04.23 Reported by 多岐太宿