広島の試合の入り方は完璧だった。森保一監督は「企業秘密みたいなところもあるんで」と笑って言葉を濁し、戦術面に関する言及は避けたが、おそらく的確なスカウティングの賜物だろう。佐藤寿人、石原直樹、高萩洋次郎、この前線の3人は立ち上がりから運動量が多く、質の高い動きで柏の守備陣をかく乱。柏からすれば、鋭敏な動きで裏へ抜け出す佐藤には細心の警戒を払い、増嶋竜也と渡部博文の2人の間ではマークを受け渡す話し合いはなされていたはず。ところがそこに石原と高萩が加わることで、フレキシブルに動く前線の3人を、ボランチとセンターバックがどこまでマークに付き、どう受け渡すのかがはっきりしない。その綻びの糸口を広島が見事に突いた格好となった。10分、森脇良太が入れた中央へのパスを、高萩、石原とテンポ良くつなぎ、最後はゴール前ファーサイドに入った佐藤がヘッドで難なく先制点を決めた。
ネルシーニョ監督は「ゲームボリュームは互角。スコアだけリードされた前半」と振り返っていたが、効果的に攻撃を繰り出す広島に対し、確実に後手を踏み、攻撃はレアンドロ ドミンゲスの突破頼みだった柏は、明らかに劣勢に立たされていた。
後半立ち上がりの47分、反撃態勢に出た柏の出鼻を挫く広島の追加点も、要は前線の動き出しと、その質の高さが関係している。フリーキックが蹴られる直前、トップの位置に入っていたのは佐藤ではなく石原、そして最初はシャドーの位置には佐藤と高萩。ここで佐藤がスルスルとポジションを上げたことで、瞬間的に安英学のマークが外れ、それが柏守備陣のマークのズレを生む。危険を感じた酒井宏樹がフリーの高萩に駆け寄るが、結局それで左サイドの山岸智がフリーになったため、佐藤に付いていた増嶋竜也はそちらに気を取られ、渡部は石原を見ているから絞ることができない。そして高萩から“どフリー”の佐藤へパスが渡る。類稀な決定力を有するストライカーが、このビッグチャンスを外すはずもない。佐藤は左足で流し込み、広島が点差を2点に広げた。
柏のスイッチが入るのはここからである。ネルシーニョ監督は大谷秀和と田中順也を投入し、中盤に安定性を加え、前線を活性化させた。その目論見は当たり、60分に安英学のフィードから胸でワントラップした田中の、振り向きざまのハーフボレーが突き刺さる。これにはGK西川周作も成す術なし。難しいことを考えず、やはり豪快に左足を振り抜いてこそ田中である。さらに77分には、増嶋のロングスローが左に流れたところを、ジョルジ ワグネルが左足で叩き、これが決まって2−2の同点とした。
おそらく昨シーズンの柏ならば、一気に畳み掛けて試合をひっくり返していたと思われるが、今シーズンはそこが違う。確かに昨シーズンばりの猛攻は見せる。相撲なら土俵際、ボクシングならロープ際まで追い詰めた状態までには持ち込む。しかし、そこで最後の一撃が出ずに、逆に相手から手痛い一発を浴びるのである。
柏の猛攻を耐え抜いた広島は85分、ミキッチのアーリークロスから柏守備陣の背後を取った高萩がワンタッチで合わせ、勝ち越しに成功した。「普通の流れだったら逆転されていたかもしれないところを、選手は踏み止まって、そこから3得点挙げたというのは成長している証」と森保監督も褒め称えた価値ある一撃だった。そして、その1点のリードを守り抜くのではなく、あくまでもゴールを狙い、試合終了間際には2本のカウンターで、石原がトドメの2点を挙げるという攻撃的な広島らしい試合の締め括り方も見事。終わってみれば3点差を付ける勝利を飾った。
中2日で迎えるアウェイ戦で、相手は不振とはいえ昨年覇者の柏。しかも場所は1999年以来勝っていない鬼門の日立台と、広島にも戦前の不安要素は存在していた。それらを打ち破った選手たちの力強さも評価に値するが、前節の敗戦に続き、ここで連敗を喫していた場合は上位戦線から漏れる可能性もあっただけに、今後の優勝争いにとっても広島には大きな勝利となったはず。
先に失点をしない。チャンスで決め切る。カウンターに警戒。柏が不振から抜け出すための3要素を、今シーズンは何度も指摘してきたが、それらは改善されるどころか、むしろ悪化の一途を辿っているようだ。今節も、まるで同じVTRでも見ているかのような“負けパターン”に陥り、星を落とした。戦術的に見て修正箇所は確実にあるのだろうが、それ以上に昨年積み上げた自信が崩れ、自分たちのサッカーに対し疑心暗鬼になってしまわないか。それが懸念される。
以上
2012.05.07 Reported by 鈴木潤
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