大木武を「敵」としてホームに迎えた戦いの結果は完敗。勝って新恋人と仲がいいところを見せたかったが、元カノが予想以上に魅力的だったから少し戸惑っただけ。今日の試合内容と結果に折り合いをつけることはそんなに難しくはない。強がりではない。逆に大木武監督も、次もその次も完勝できるなんて思うはずがない。水晶球に先発メンバーやシステムを教えてもらっている訳ではないので、「勝っても負けても次が大事」って言うはず。勝ったら全てがいいわけではないし、負ければ全てが駄目だったわけでもないからだ。見えるものだけを見るのではなく、見えなかったものが何なのかを見ようとするのが監督の仕事。
06年、07年のいいときの甲府と対戦しているような気分になった京都戦。こんなに露骨に過去と向き合えるとは思っていなかった。アップのときにワンタッチパスを連続して蹴るメニューがあったのだが、それがミスなく素晴らしく正確に続いていた京都。そして、4分。中山博貴、宮吉拓実、サヌとワンタッチで渡ったパスをサヌが決めたときは、ショックだったが(このまま90分間は続かないはず)と思っていた。しかし、大木が監督だったかつての甲府がやったように京都がサイドの狭いエリアでパスを回し始めると、甲府は見事に引きずり込まれた。狭いエリアでのパス回しは速くて正確な判断とタメと飛ばしで相手に後手を踏ませ続けることがミソだが、3戦連続で先制を許した甲府は見事にハメられた。このパス回し対策は、前に出るボール以外は無視してゾーンで守り、食いつかなければいいということはかつての甲府がやられて知っているが、焦りがあったのか京都の思う壺の食いつき様。16分にピンバとダヴィのコンビでネットを揺らしたがオフサイドで、勝利の女神に愛されないから勝負の肝も手に入らない。でも、このパス回しのもう一つの弱点、逆サイドが空きやすいという点を甲府は何度か突いた。
甲府は奪ったボールを右サイドの柏好文に出してカウンターを仕掛けたが、クロスの入れ時の見極めが単調で京都のゴール前ではじき出されて、ほとんどがシュートに繋がらなかった。しかし、奪ったボールを徹底して逆サイドに展開することをやり続ければゲームの流れを引き戻せたかもしれなかったし、20分頃からは京都のパスワークに少し慣れたように見えたので(同点には追いつくだろう)と少し安堵した。ただ、パス回しの力は京都が甲府を圧倒していたから、甲府は別の顔を見せて流れを変えるしかなかったと思う。でも、そういう判断をする余裕もなかったのか。甲府はツータッチ以上のパスが多く、プレッシャーをかわすアイディアも不足していたからトラップしてから次にどこに出すかを探すコンビネーションの悪さを露呈。去年あたりからパス回しが顕著に下手になっている印象だ。3試合ぶりに先発復帰した井澤惇は、京都にマークをやり直させて後手を踏ませるために、一人かわして次のマーカーに喰いつかせてからパスを出して、分の悪いリズムを変えようとしていたが、この意思はチーム全体には繋がらない。井澤とのコンビネーションでパンパンパンとやれそうだったピンバも速いプレスに苦戦。そしてツートップのボールの収まりがよくないからバックパスが流行のように増え、京都の前線の3枚が弱ったガゼルを追いかけるライオンの群れみたいに襲い掛かる。
ハーフタイムに仙台の試合が悪天候で一時中断したと聞いて、山梨でも空がゴロゴロ鳴り始めていたので(無かったことにして再試合にしてもらいたい)と心の中で思うほどの前半だったが、0−1で勘弁してもらった甲府にはまだゲームを取り戻すチャンスはあるはずだった。後半の甲府は、裏に飛び出すことが少なくボールの収まりもよくなかった青木孝太に代えて永里源気を投入。京都は中村充孝に代えて黄大城を投入。で、どちらが効果的だったかというと後者。サイドのケアに成功して甲府の数少ない突破口を減らした。そして、本当に京都が上手いと思ったのは後半開始間もなくのCKの場面。甲府の選手がゴール前を固めていると京都はショートコーナーを選択。でも直ぐにボールを入れずに、ペナルティエリアとコーナーポストの間で回して、甲府の選手をペナルティエリアから外に引き摺り出し、中の人数が減ってからクロスを入れた。支配しているからこそできるやりかたで素晴らしい。そして、この場面のすぐあとに2点目を中山が決めている。
後半も立ち上がりに失点した甲府は、高崎寛之と堀米勇輝を続けて投入するが、フレッシュな選手の力を活かして流れを変えるほどの組織力は残っておらず、散発的な抵抗をするだけ。68分には、ここまで何度か見られたDFラインとGKの間に入れられたボール対処の意思の不統一から、追い込んだ宮吉が甲府のファンが家に帰りたくなる3点目を決める。最後は3バックにして流れを変えようとしたが、堀米のCKにダヴィが頭で合わせてバーを叩いたシーンが最もゴールに近かっただけで、結局シュートは前後半合わせて4本だった。
最終盤、気がつくと強くなっていた雨。テクニカルエリアで腕組みをしてピッチを見つめるずぶ濡れの城福浩監督。大木武監督は腕組したままベンチの外壁に寄りかかって濡れながらピッチを見ている。今季初の完敗をホームで喫した城福監督と、おそらくここまでのベストゲームをかつて応援してくれた山梨のファン・サポーターに見せ付けた大木監督。現役時代、富士通サッカー部でキャプテン(城福)・副キャプテン(大木)だったことを持ち出す懐古趣味は今の2人にはないだろうが、かつて甲府のファン・サポーターに最も愛された大木と、甲府のファン・サポーターと城福丸での航海が始まったばかりの新監督の2人の縁はこれから再び深くなっていくかもしれない。
05年から07年の特別な3年間を甲府の選手・スタッフと共に創り出した大木監督が、京都の監督として第13節で見せたサッカーは魅力的だった。京都のファン・サポーターがこういうサッカーを好きになって、より多くの応援を受けられるようになるのなら負けたことは更に気にならない。アルディレス風に言うとピッチの外ではアミーゴだから。京都が次も同じように戦える保証はないが、タケシ京都が登ろうとする山の形はファン・サポーターに充分に見えたはず。そして、長期政権とはなかなか縁遠い京都だが、クラブ関係者が昨年は我慢して我慢して今年に繋げていることにも敬意を払う。城福監督になって1年目の甲府はまだ基礎工事の段階だが、いずれは違う道から同じタイプの山に登る。試合後、選手に「俺の責任だ。誰にどんなことを言われたとしても俺が受け止める」と話した城福監督。井澤が「監督の責任じゃない。僕らの責任」と言ったように、誰も城福丸から降りようとは思っていない。日本サッカー界に残るフロンティア、プロビンチアの象徴という目標にみんなで進みたいから。次節のアウェイ熊本戦は攻守の要のダヴィと山本英臣が出場停止で厳しいが、居れば絶対に使う選手が居ないだけに思い切ってできることもある。僕らにはまだ城福監督が見せたい山の形ははっきりとは見えないけれど、プロビンチアの象徴になりたいという心意気に惚れて同じ船に乗っている。
負けた時も次が大事。やり直せばいい。
以上
2012.05.07 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
一覧へ【J2:第13節 甲府 vs 京都】レポート:キツイ3発で過去と向き合った甲府だが城福丸は進む。タケシ京都は登りたい山の形をファン・サポーターに最高の形で披露してGWの連戦を締めくくった(12.05.07)
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