この競技においてできるだけボールを持ったほうがいいのは、それだけ多くのリスクを回避できるからなのだが、ボールを持てるからこそ生じるリスクというものも存在する。ボールを支配しながらなかなか点を取れないでいるようだと、焦りからミスが発生し、そこを突かれてカウンターを受け、先程までゴールをねらっていたチームのほうが先に失点する…などということもよくあるからだ。
前半の仙台には、そういう展開に持ちこまれる危険性もあった。ウイルソンと柳沢敦の2トップがうまくボールを収めて、それを合図に両サイドから厚みのある攻撃を仕掛ける形でボールを支配。しかしリーグ戦の連敗を止めたい札幌も仙台のサイド攻撃は警戒しており、「前半の終了間際まではよく守れていた」(石崎信弘監督)。逆に狭いエリアで仙台のパスを引っかけた札幌が、シンプルに大島秀夫・近藤祐介のように前線に攻撃のポイントを作ることができる選手にボールを送ってチャンスをねらう場面もあった。18分に砂川誠のスルーパスに大島が合わせたところでゴールが決まっていれば、展開は変わっていたかもしれない。
この状況を打開したのはベテランの一撃だった。前半もアディショナルタイムに突入した頃、ウイルソンが岡山一成を巧みなフェイントでかわして右サイドからクロスを上げる。これに打点の高いヘディングで合わせた柳沢のシュートから、仙台が先制点を挙げた。
昨年9月に仙台加入後初得点をアウェイで挙げたときから「今度はホームのユアスタでゴールを取りたい」と言い続けてきた柳沢にとっては待望のゴールだったが、ハーフタイムでは「記録上はオウンゴール」という情報もあったということで「きちんとしたゴールを決めたかった」と気を引き締め直して後半へ。すると47分、右サイドを崩した太田吉彰からのクロスを確実に合わせて追加点。ここまで奮闘していたGK杉山哲が反応しきれないコースを射貫く、技ありのゴールだった。
その直後に札幌がFKから仙台のオウンゴールを誘って点差が1点に縮まっても、仙台側は焦らずボールを回していた。柳沢がそうであったように、けが人続出のチームのなかで代わってチャンスを得た選手達が、落ち着いたボール回しからサイド攻撃を機能させていく。冒頭に示した「ボールを持てるが故のリスク」も、後半にはほとんど感じさせなかった。
やはりけが人続出の札幌も「チームがこういう状況なので、流れを変えたかった」と意気込んだ岡山などチャンスを得た選手達が奮戦したものの、それぞれが噛み合ってこの日に組織としての強さを発揮したのは仙台のほうだった。
56分にはCKからの流れでウイルソンが、72分にもCKのチャンスから中原貴之がそれぞれ追加点を挙げ、試合を決めた。
「けが人が出てもみんながカバーをする意識があるからこそ、結果が付いてきていると思う」と、殊勲の柳沢は試合後に振り返った。この日のユアテックスタジアム仙台では「札幌のサポーターもすごく声が大きかったし、それ以上に仙台のサポーターも大きかった」と手倉森誠監督が感心したように、両チームのサポーターが90分間団結力を見せて試合を盛り上げた。仙台と札幌、それぞれのチーム状況に違いはあるが、けが人が出た中でもそれをカバーする組織力を武器に、これからのリーグ戦も戦っていく。
以上
2012.06.17 Reported by 板垣晴朗
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