「若い選手と（年齢が）上の選手のバランスと、あとは萬代を（メンバーから）外したことです」。中島裕希選手がそう勝因を分析した。

６月16日、自分の誕生日に勝利チームキャプテンとしてチーム編成し、７−３で大勝。試合後にはチームメイトから担ぎ上げられ、萬代宏樹選手を含む敗者チームの選手が遠く見守るなかで勝利の余韻に浸った。

山形の練習メニューですっかり恒例となった、試合前日のリラックスゲーム（以下、「リラゲー」）は、マネージャーにビブスを渡された２人（または１人）がその場でメンバー選考・チーム編成を行う。２タッチ以内など簡単なルール以外はプレーに関する制限は特になし。ＧＫ清水健太選手が毎試合のように決定機に絡みゴールを決めるなど、ポジションも自由。通常の公式戦ではあり得ない、選手同士のストレートなコーチングも楽しめる。選手たちの違った一面が見られる人気メニューだ。
そのリラゲーに変化が訪れたのは、桜の季節のことだった。

「勝利チームの集合写真を撮って、クラブハウスに飾ろう」
奥野僚右監督から突然の発案があったのは４月21日、北九州戦の前日のリラゲー中のこと。それ以降、勝利チームの集合写真の撮影も恒例行事に加わった。撮影ポーズを決める際に選手同士の素のじゃれ合い（どつき合い？）が見られるとあって、見学のサポーターにとっては楽しみがさらにひとつ増えたが、ゲームごとに写真がクラブハウスに飾られ栄誉を称えられることで、ゲーム内容はより勝負を意識する方向へと変質している。「リラゲー」から「マジゲー」へ。そのなかで、名勝負も数々生まれている。

５月26日（土）
集合写真を撮影することにしてから前回までのリラゲーで、ただ１人勝っていない選手がいることが判明していた。その選手、萬代宏樹選手が、この日は選択権を独占。単独指名でチーム編成することになった。のちに聞いたメンバー選考の基準は、「勝ってる人」だった。
しかし、ここまで未勝利の萬代選手に選ばれた選手の心中は穏やかではなかった。船山祐二選手は「俺がキャプテンのときはずっとあいつを選んでたから、あいつも俺を選んだと思うんですけど、本当はいやだった」と告白している。
試合は対する中島チームが10分ハーフの前半で２−０とリード。歴史は繰り返す。誰もがそう思ったことだろう。しかし、後半に入ると萬代チームが驚異の追い上げを見せる。１点を返し、同点に追いついたのはアディショナルタイム。ゴールデンゴール方式の延長戦に持ち込むと、ついには逆転に成功した。

奇跡の大逆転劇！しかし、チームメイトは思いのほか、クールだった。船山選手が「あいつは今日で最後の勝利だから、よかったんじゃないかな」とニヒルに話せば、同点ゴールを挙げた清水選手も「萬代にあまり勝たせたくなかったんですけど、単純に負けたくなかったので」とこちらも淡々とした反応。
ただ、ようやく勝利を味わった当の萬代選手は、「これで何か変わるのか？」の質問に、「気持ちよく移動できます」と言い残し、熊本遠征に旅立っていった。

６月８日（金）
キャプテンは別メニューから復帰した岡根直哉選手と伊東俊選手。特に岡根選手は開幕前から長期離脱していたため、復帰後初のリラゲー参加で注目されていた。このゲームも、やはり“あの人”をめぐる動きが明暗を分けた。
全体の人数が奇数だったため、岡根チームが１人多い状態でプレーしていたが、先制しリードしていた伊東チームに負傷者が発生。人数を合わせるため、岡根チームから伊東チームに１人「移籍」させることになった。そこでキャプテン・岡根選手は、迷わず萬代選手を放出。岡根チームの清水選手が「よーし、これで流れが変わるぞー！」と言った直後、なんと岡根チームが同点、さらに逆転。萬代選手のオーラ、おそるべし！
後半は点の取り合いになったが、結局、５−４で岡根チームが勝利。英断で勝利を引き寄せたキャプテン・岡根選手は、「オカザイル」で勝利の記念撮影に収まった。

たかがリラゲー、されどリラゲー。今後も名勝負が生まれる予感満載のリラゲーを見逃すな！

以上

2012.06.22 Reported by 佐藤円