ハーフタイムを挟んだ1分にも満たない時間で、今季最初の東海ダービーの勝敗は分けられた。決定機をものにしたのはホームの名古屋。リーグ再開後のチームをけん引する2選手の才能がもたらした2得点で、久々のホーム勝利を手にした。

前節、鹿島でのアウェイゲームをものにし、自信を回復した名古屋は戦力面でも回復傾向にあった。左膝半月板の手術を受けた中村直志と、左足首の状態が悪い玉田圭司は長期化しそうな様子だが、ダニルソンと吉村圭司はベンチ入りを果たし、懸案だった守備面での駒は揃ってきている。玉田不在の攻撃陣も、永井謙佑が鹿島で2得点1アシストと大暴れ。相棒の金崎夢生も好調をキープし、ケネディの腰の状態も序盤に比べれば着実に上がってきている。何より目立つのは藤本淳吾のハイパフォーマンスぶりだ。鹿島ではひとり別格の技術とセンスを見せつけ、ゲームの支配者となっていた。アンカーを務める若い田口泰士も試合勘を養ってきており、前がかりの布陣はさらなる勢いを得ていた。

対する磐田にとっては少しの不運が重なった試合だった。山田大記が出場停止、ぺク・ソンドン、松浦拓弥が負傷などで欠場し、さらにはロドリゴ・ソウトも欠場。主力を大幅に欠き戦力ダウンは間違いなかったが、それでも前線に前田遼一、山崎亮平、山本脩人、菅沼実と並べられる戦力は流石のもの。また「僕たちは夏場でも走れるんで」と山本康裕が言うように、今季は森下仁志監督のもと日々ハードなトレーニングに明け暮れており、体力面でのアドバンテージが選手の自信にもつながっている。ゆえに主力の欠場の影響はない、と言い切り、この一戦を戦っていた。

前半は一進一退、やや磐田ペースで試合は始まったのだが、アクシデントが試合の流れを変える要因を生んだ。21分、磐田のGK八田直樹が左手を負傷し交代。代わって出場したのは先のヤマザキナビスコカップでプロデビューを果たしたばかりの竹重安希彦だった。森下監督が「初めてに近いのに落ち着きをもって、ビルドアップにも参加した」と及第点以上の評価を与えた若いGKは、最初のシュートを無難にさばくと35分にはビッグセーブを披露。CKからのケネディの至近距離からのヘディングシュートを右手一本で防ぎ、GKの負傷交代という嫌な流れを断ち切っていた。だが、そのまま前半は0-0で終わるかと思われたラストプレー、名古屋の直接FKでは痛恨のミスを犯してしまった。

ペナルティエリア右前の場所からのFKに構えたのは藤本と小川佳純。どちらでも狙える角度だが、定石を言えば右利きの小川の方が壁を巻いて蹴りやすい位置だ。少なくとも、壁を越えてGKの左側のスペースに蹴ってくることが多い。しかしキッカーの藤本が選んだのは、GKの右側だった。そしてキックの瞬間、竹重は左のスペースにいち早く反応すべくステップを一歩左へ。鋭く飛んできた右へのシュートの反応が遅れ、あえなく先制点を献上することになった。してやったりの藤本は「僕が壁越しに蹴ることは分かっていたと思うけど、あの位置なら左右どちらにも蹴れる」と余裕の発言。リーグ屈指のFKキッカーの実力が、リーグ初出場のGKを上回った。

後半開始早々には名古屋がダメ押しの2点目を奪い、勝負を決めた。相手のキックオフからの積極的なプレスでボールを奪うと、藤本が永井に鋭い縦パスを送る。永井はディフェンスを一人かわしてゴールへドリブルを開始すると、藤本とのワンツーで一気にゴール前に侵入し、GKの股を抜く技ありのシュートを流し込んだ。この間、30秒にも満たない速攻はまさしく電光石火。「自分は決めるだけでした」と語る永井に対し、ラストパスの藤本は「スピードアップした瞬間にダイレクトで蹴られるボールを送った」と、意図が噛み合った見事なゴールで、名古屋は主導権をがっちりと握ることに成功した。

その後の名古屋はシュート数こそ磐田に譲ったが、これといった決定機は作らせない盤石の守備を展開。76分からは増川隆洋を投入し3-5-2で守りを固め、前田を目がけて送られるクロスへの対策に万全を期する慎重さをもって対抗した。3点目こそ奪えなかったが、72分の藤本、85分の田中マルクス闘莉王、そしてアディショナルタイムの巻佑樹と決定機も十分に作り出し、ゲームを支配。「今日は良い夜になった」とストイコビッチ監督が褒め称える内容で、2-0をキープした名古屋が勝点3を手にした。

敗戦を受けた磐田の森下監督は「僕自身は90分を通して、私たちのチームの未来が見えたようなゲームだったと思う」と手応えを強調。しかし選手たちは「ボールも人も動くと言うことが少なかった」(菅沼実)、「ああやって(前田)遼一さんが孤立するのは、典型的なウチの悪い試合」(山本康)と反省しきりだった。確かに攻撃における単調さは、この日の磐田の敗因のひとつであったと言えるだろう。希望が持てるのは、「キツイ練習もして、充実しているけど、こういう試合をやるための練習じゃない」という山本康の言葉だ。ここに森下監督の言う「未来」が見せているような気はした。

再開後2連勝の名古屋の面々は充実の表情だ。「全体的に安定感のある試合だったと思う」と小川は話し、藤本も「全体的にバランスがいい」とチーム状態の良さを実感していた。5年目の田口の口から「最後に優勝できるように」という言葉が飛び出すあたりにも、その充実ぶりは感じられるというもの。何よりホームでの連敗も3で止め、6月唯一のホームゲームに集まったサポーターたちとともに勝利の凱歌をあげられたことの意味は大きい。次週はG大阪、横浜FMとのアウェイでの2連戦が待つ。連勝の勢いをそのままに、狙うは6月全勝。それも十分可能と思わせる、強い名古屋がついに帰ってきた。

以上

2012.06.24 Reported by 今井雄一朗