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【J1:第16節 大宮 vs 清水】レポート:大天使ラファエル、終了直前の絶妙スルーパスで清水から勝点3を奪う(12.07.01)

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大天使は最後まで大天使だった。後半アディショナルタイム1分、カルフィン ヨン ア ピンと李 記帝との間にできたスペースを途中出場の渡邉大剛が窺うと、天使の羽が生えたような優しいパスがラファエルの右足から放たれる。走り込んだ渡邉が軽く合わせたボールは飛び出した林彰洋の股間を抜け、ゆっくりと清水ゴールに吸い込まれた。この「完璧なスルーパス」(渡邉)が、2009年夏に舞い降りて以来ずっとチームを降格危機から救い続けた大天使ラファエルの、大宮でのラストタッチだった。

大宮はこの試合を大揺れの中で迎えていた。6月中旬にブラジルメディアに浮上したラファエルのボタフォゴ移籍の噂が、試合前日にはほぼ確報として地元紙やスポーツ紙に掲載された。その上、ラファエルは先週のトレーニング中に足を痛め、前節の広島戦に欠場し、この日も90分の出場は難しい状況。さらに、2011年に加入してセンターバックのレギュラーとして活躍していた金英權も、中国リーグ移籍のため既にチームを離れたと報じられた。こうなると、現在チーム得点王で攻撃の大きな武器であるチョ ヨンチョルが韓国オリンピック代表の最終メンバーから落選したことまで、チームに暗い影を落とすような気になってくる。これでチームが一丸となって戦えるのか。まして相手は、ここ5試合勝星がなく順位を7位まで落としているとはいえ、内容的には素晴らしいサッカーを展開している清水。21日前のヤマザキナビスコカップでの対戦では、1−3と敗れている。ベルデニック体制になっていまだ勝点3を取れず、戦術の浸透も途上にある大宮にとって、これほど勝算を見出すのに難しい試合もなかった。

予想通り、前半からほぼ一方的に清水がゲームを支配した。アグレッシブな前線からのプレスで大宮にボールをつながせず、長谷川悠をターゲットとしたロングボールに対してはボランチとセンターバックがしっかりケアし、中盤でセカンドボールも拾わせなかった。大宮は選手同士の距離感が遠く、ボールホルダーはあっという間に清水に囲い込まれてボールを奪われた。清水はヤマザキナビスコカップと同様に大宮のコンパクトな守備ブロックのサイドで起点を作って攻めたてる。特に左サイドで、小野伸二が浮いたポジションを取ってボールを受け、うまく李のオーバーラップを引き出した。そこから中へ、あるいは逆サイドへボールを展開し、多くのチャンスを作る。前半だけで清水が放ったシュートは11本。そのうち江角浩司が身体を投げ出し、必死でゴールマウスから弾きだした場面が4回はあった。彼の鬼神のような活躍がなければ、前半でゲームは決まっていただろう。

後半に入っても試合の様相は変わらず、大宮は開始から立て続けで清水にペナルティエリア侵入を許した。守備ラインを下げられ、サイドに振られてのスライドが間に合わなくなり始め、清水の両サイドバックに何度もサイドをえぐられた。ただ清水も、サイドでこそ裏を取れていたものの、中央で大宮の最終ラインの裏を取るようなランニングは乏しかった。クロスを上げても深谷友基と菊地光将の両センターバックが跳ね返し、中央からのシュートは身体を張って阻止した。
しかし57分、前線で孤軍奮闘していたチョ ヨンチョルに代えてラファエルが投入されると、試合の流れが変わり始める。ベルデニック監督が「動きの多いヨンチョルと、効果的な動きをしている長谷川と、どちらを交代させるか、少し時間をかけて悩んだ」と明かしたように、確かにヨンチョルは広範囲に動いてボールを引き出していたが、孤立した状態で足元でボールを受け、そこからドリブルを仕掛けてはつぶされていた。この交代によって、長谷川はターゲット役をラファエルに任せ、最終ラインの背後へ効果的なランニングを仕掛ける。たとえそこへボールが出なくても、そのスペースでラファエルがボールを受ければ良い。多少アバウトなボールでも超絶トラップでボールを収め、キープすることができるラファエルに清水DFは手を焼いた。結果、前半のようなコンパクトさを清水は失い、高い位置で奪い返せず、大宮にゴール前まで迫られるようになっていった。特筆すべきは渡部大輔の攻守にわたる貢献で、最終ラインの横まで下がって大前元紀や吉田豊の突破を食い止めたかと思えば、左サイドに流れてのプレーを好むラファエルをサポートし、さらには逆に清水の最終ラインの裏を脅かした。そしてヘディングの競り合いで頭部を切った長谷川に代わった清水慎太郎も、積極的に最終ラインの背後をねらい、守備でもアグレッシブにチェイスして前線を活性化させた。
全体的には清水に押し込まれ、ラインが下がる一方だった大宮だが、攻撃に可能性が出てきたことでさらに守備への集中も増し、清水にシュートまで持ち込ませる場面も減っていった。互いに中盤が間延びし、局面を打開するために強引なプレーが増え、球際での接触が激しくなり、レフリーの判定に過敏になる選手やベンチの苛立ちはスタンドへ伝わって大きく増幅され、満員のスタンドをオレンジに染めた両サポーターのボルテージは上がり続けた。江角の背後からのチャントと、林の背後からのサンバが、「もっと戦え、ゴールを見せろ!」と選手たちを煽る。88分、東慶悟に代わって渡邉大剛が投入されると、渡邉はサイドから中に入るプレーで持ち味を発揮。さらに渡部が連続して斜めのランニングで清水の最終ラインの背後を取り、ペナルティエリア内に侵入してチャンスを作る。清水の右サイドは完全に浮き足立った。

そしてアディショナルタイム1分、清水の右サイドのスローインを下平匠が奪って中央の清水慎に送ると、清水慎が「自分でも良いプレーができたと思う」と自画自賛するターンでマークを振り切り、バイタルエリアでフリーになっていたラファエルへ。直後、オレンジの歓喜と絶望が交差する。大天使からのプレゼントパスによって、大宮が劇的な6試合ぶりの勝利、ベルデニック体制になって初の勝点3を手にした。

清水はまたしても、守りを固めるチームを攻めたてながら、ゴールを奪うことができずに敗れた。清水はこれでアウェイ3連敗。ここまでの6敗はすべてアウェイでのものだが、なかなか合理的な理由を探すのが難しいくらい、ホームでもアウェイでも戦い方としては安定している。守備は堅く、攻撃も美しいサイドアタックができている。指摘されていた、攻めている割りのシュート数の少なさも、この日は16本を放っているし、決定機も5回以上はあった。ただ、確かに「我々は美しいサッカーをしている」(ゴトビ監督)が、決めきる迫力に欠けた。そこには運もあるが、ほぼ一方的に攻めている割りに、クロスや最終的な崩しの局面でペナルティエリア内に入る人数が少ないようにも思える。「1人1人の気持ちの準備、もっとひたむきにハードワークすることが必要」(河井陽介)なのだろう。

一方、試合前の心配は杞憂に終わりチーム一丸となって勝利をつかんだ大宮だが、ラファエル投入によって流れが変わっただけに、勝利のうれしさ以上に『ラファエル後』という課題が大きく残る試合となった。いまだ大宮・ボタフォゴ両クラブから正式発表はないが、これがラファエルの見納めになることを察して試合後も居残ったサポーターの前で、ラファエルは自らこの試合を最後にチームを離れることを明かした。約3年間、大宮の攻撃が多かれ少なかれ『ラファエル頼み』だったことは否めない事実で、そのラファエルなき後いかに攻撃を作っていくのか、残念ながらこの試合では安心させる材料を見せることはできなかった。この勝利で降格圏から勝点6差を付けて14位に浮上はしたが、むしろ苦しいのはここからだろう。
とはいえ、ラファエルの置き土産ともいえるこの勝点3の持つ意味は大きい。大宮にとって何よりも欲しかった『監督交替後の初勝利』。いくら実績のある監督であろうと、戦術や指導が理にかなっていようと、結果が出なければ選手たちにも迷いが生じる。「質の高い選手がそろっているのに、結果が出ないことで自信を失っている」(ベルデニック監督)状態から抜け出すきっかけになるだろう。大宮に舞い降りた大天使は、やはり最後まで大天使だった。その置き土産を決して無駄にしてはならない。

以上

2012.07.01 Reported by 芥川和久
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