時折、激しい雨が打ちつける中での試合となった。濡れたピッチにキックの精度は奪われ、奪ったボールを簡単に相手に渡してしまう。思うようなドリブルもできず、相手のプレスをかわせずに攻守の逆転を招いてしまう。しかし、これらは想定の範囲内。ともに今季J1に昇格した鳥栖対札幌の試合は、序盤から無理をしない、無理をさせない試合運びとなった。
したたかさを見せたのは札幌。今節を迎えるまで6連敗で、前半のうちに失点し流れを取り戻せない試合が続いていた。そんな中で、石崎信弘監督は控え選手にGK1人とDF1人以外、5人のFWを入れて今節に臨んだ。
前半は、「前節のG大阪戦で機能した3ボランチ」(石崎信弘監督/札幌)を採用し、鳥栖の攻撃の芽を摘んだ。雨中の試合ということもあり、ボランチがボールを受けても積極的に前を向こうとはせず、DFを含めてのパス回しを行っていた。これは、『守備的』なのではなく、ピッチコンディションと試合の流れを見て、5人揃えた控えのFWを投入する作戦と感じた。実際に、前半に放ったシュートは2本、後半は6本と数字に表れている。
この作戦に手を焼いたのが、ホームで迎え撃つ鳥栖である。FW池田圭が頻繁にボールを受ける動きを見せるが、札幌は動じることがなく、3ボランチと4ディフェンスのラインが崩れることは少なかった。「フォーメーション通りに立っているだけでは相手を崩せない」と司令塔のMF藤田直之は、試合運びを振り返った。「相手が引いた中でのバイタルエリアでのコンビネーションが不足していた」とMF早坂良太も同様の反省の弁を述べた。ピッチの中で鳥栖に崩すアイデアを出させなかった札幌の守備と石崎監督の老練さ、それをやりぬいた札幌の選手たちには敬意を表したい。
この試合が動き出したのは59分から。石崎監督が、FWにキリノを入れた時間帯からである。この日の札幌は、本来MFの宮澤裕樹をFWに起用していたが、その位置にキリノを入れて宮澤を1枚下げた。「キリノが入ってから、特にきつくなった」とDFキム・クナン(鳥栖)が振り返ったように、鳥栖のDF裏を狙う意識が高くなり、札幌が徐々に押し込む時間帯が増えてきた。札幌は、76分にFW内村圭宏、82分に近藤祐介を入れて疲れの見え始めた鳥栖DFに追い討ちをかけた。
ここで、「最後まで集中を切らさず戦った」(尹晶煥監督/鳥栖)のが、この日がJ1初先発となったGK奥田達朗とJFA・Jリーグ特別指定選手のDF坂井達弥である。「J1の試合に順応するのは難しかったと思う」と尹晶煥監督は労をねぎらったが、彼ら2人を支えたベテランの存在も大きかった。「磯さん(DF磯崎敬太)と丹羽さん(丹羽竜平)から声をかけてもらって、いい緊張感で試合には入れた」と奥田達朗は笑みをこぼした。「オク(奥田達朗)は、ニワ(丹羽竜平)と磯さん(磯崎啓太)に任せて、僕は坂井(坂井達弥)とラインのこととかカバーリングのことを話した」とキム・クナンも若い相棒に声をかけ続けた。これが尹監督の「誰が出てもやることは同じ」ということであり、「チームが一つになって戦う」ことなのだろう。最後まで、「選手が勝ちたいという意欲を持ってくれた」(尹監督/鳥栖)ことが、ラストプレーにつながった。
後半アディショナルタイムの5分も終わろうとしていたコーナーキック。ファーサイドから折り返したボールをMF水沼宏太がヘディングで決めたのである。
「来ると思っていたし、出たからには結果を残さないと…」と爽やかな笑顔で水沼は振り返った。本当に何かを残してくれる選手である。最後の最後に、点が入らない焦燥感を一気に取っ払ってくれた。
そして、もう一つ。このゴールに絡んだ坂井の非凡なセンスを紹介しておく。「前半からCKが外に流れるように見えていたので、あの時(決勝点アシスト)は意識して外に出ました」と試合後に振り返った。鳥栖が得たCKは、後半は1本だけ。その1本で、坂井のヨミが当たったのである。鳥栖の全員サッカーはこれからも続くだろうし、札幌は次節以降に期待を持たせる試合だった。
多くの観衆の前でその高いテクニックを見せ、コミュニケーションをとって流動的な動きを見せる選手たちは、本当にすごいと思う。
サッカーは、一瞬にして観ている人を惹き付けるプレーの集合体である。
以上
2012.07.01 Reported by サカクラゲン















