想像以上に苦しめられた試合展開だった。事前の予想では、もっと攻撃的に。そしてペナルティエリアに近いところでもう少しパスを回せるのだろうと思っていた。というのもこの一週間、川崎Fは狭いエリアでもパスを回すことをテーマに練習を続けていたからである。ただ、それは、この一週間の練習について説明する風間八宏監督自身が「ミスは減ったが、そう簡単なことではない」と付け加えていることから、そう簡単に身につくものではなかったという事だろう。
厳しい試合になってしまったという事については選手たちも自覚しており、例えば山瀬功治は「天皇杯でよくある形のゲーム。普段対戦しないような相手とのゲームで、うまく自分たちのパターンにできなかった。相手がどうというよりは自分たちに原因があると思う。前半はひどい内容だったので、気を引き締め直して後半に入った」と述べている。
そんな内容の悪い前半に一人奮闘していたのが田中裕介である。公式記録では前半だけでシュート4本を記録。それ以外の選手がFWを含めほとんどシュートを打てていないことと比較するとずば抜けた数字を残している。田中裕はなぜそこまで積極的だったのか。田中裕は山瀬と同様、この試合の印象を「天皇杯初戦というありがちなゲームになってしまった」と反省する。そしてこの言葉に続け、自身の積極性を説明する。
「相手は特別前からきたわけじゃないが、人もボールも動かなかったし、ミスも多かった。思い切りがなくてふわっとした雰囲気だったので、後ろの自分が前に出ていくことでチーム全体として前に出て行く意識をつけたかった」
この田中裕の積極性は、結果的に得点には繋がらなかった。ただ、25分、28分と立て続けに決定的なシュートを放つなどしてチームを鼓舞し続けた。鬼気迫るオーバーラップでチームにカツを入れたのである。
ピッチ上で、自らのプレーでチームを牽引したのが田中裕であるとすれば、ハーフタイムにはそれぞれの立場からチームを立てなおそうとする努力が行われた。まずは風間監督。前半の悪さを、試合開始直後に攻め込めたことで気持ちが緩んだからだと説明。それにより「当たり前ですが動かなければサッカーにならない。そのへんで楽なところ、楽なところに逃げていった。それによって崩せない。あるいは崩しにいかない、という意識が出てきた」のだと話す。だからこそ、風間監督は「ハーフタイムにはそこは(修正するように)強調しました」と述べている。
その結果、「後半の立ち上がりから崩しに行くようになった」と選手たちの意識の変化を表現する。風間監督の指示に加え、ハーフタイムには選手同士が話し合う姿も見られている。風間宏矢はハーフタイムのロッカールームについて「井川さんたちからこのままじゃダメだという声がでていましたし、そうだと思いました」と振り返る。
もったいなかったと風間監督が述べた前半の45分を終え、ロッカールームで現実をつきつけられてようやく川崎Fにエンジンがかかる。重苦しい空気を打ち破ったのは、後半開始直後の49分のゴールだった。
「1点目はたまたま自分に転がってきて、ぎりぎりのところで止めて、あとはトーキックで何も考えずに蹴ったら入った」と話すのは、チームを勝利に導く2得点を決めた山瀬。一定の緊張を強いられる戦いからようやく開放された川崎Fは、ここからバランスを取り戻す。
前述した理由により、偏重していた田中裕の攻撃参加が落ち着きを取り戻し、山越享太郎が攻撃参加の回数を増やす。相手を押し込む展開だからこそ、リスク管理を忘れてはならない。そんな当たり前のことを思い出させてくれたのが、64分に訪れたピンチの場面だった。大島僚太の静岡学園時代の同級生である利根瑠偉が決定的な仕事をした。ギャップを突いて抜けだした利根がドリブルで持ち込み、杉山力裕との1対1に持ち込む。1点をリードされていた徳山大学にとっては同点に持ち込めるか、という千載一遇のチャンスだった。
「コースを狙っていたのですが、落ち着いてやれてればよかったです」と悔しさをにじませる利根に対し、杉山は「相手は股を抜こうとしていたので、左足で払いました」と振り返る。股の下を通過しそうだった利根のシュートは、危機を察知した杉山の瞬時の判断によって掻き出され、それがチームを救った。静岡学園の先輩でもある杉山のファインセーブだった。
攻勢には出ていたが、いつ同点ゴールを食らうやもしれない展開の中、試合を決めたのは77分の山瀬の2点目だった。
「2点目はノボリ(登里享平)のおかげ。自分は頭に当てるだけだった。ボールを前に運べるがなかなか決定機を作れない展開だったので、ワンチャンスを決めることができたのはよかった」と山瀬。アシストした登里は、彼らしいファーストタッチで相手DFを抜き去り、そしてクロスを上げていた。非常にいい得点だった。
前半から全力で走り続けていた徳山大学に、ここから反発する力は残されていなかった。川崎Fの肝を冷やし続けた利根は、後半途中から両足をつらせてしまい、運動量が激減。徳山大学は効果的な反撃の機会を作り出すことができないまま、試合は2−0のまま終わることとなる。
苦しみながらも順当に勝ち上がった川崎Fの選手からは、反省の言葉だけが出ていた。その一方で、全力で戦い抜いた徳山大学の選手たちは、やりきったのだという表情が見て取れた。
苦しみながら3回戦へと駒を進めた川崎Fの次戦の相手は徳島である。もちろん難しい試合になるだろう。だからこそ、しっかりと潰せる問題は潰しておきたい。そしてそれまではしばし、リーグ戦に集中しよう。
最後にこれは余談になるが、利根は試合後に、大島との2ショット写真を撮影し、サインまでもらっていた。まるでサポーターのような行動だったが、前半の戦いの中で見せたドリブル突破は鋭いものがあり、数年後にJでプレーしていてもおかしくはない能力を持つ選手に見えた。彼のこれからにも注目したいところだ。
以上
2012.09.09 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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