「2012年シーズンが、どういうシーズンだったのかというインパクトを残さなければいけない。これからは、今までやってきたことをパワーアップする時期。粘り強く戦い、諦めないことを示す試合にしたい」（前田浩二監督・福岡）

ホームゲームも残る試合は５。第34節・町田戦を控えて、前田監督は、そう話していた。しかし、この日、インパクトを残したのは町田ゼルビア。ただゴールだけを目指して足が動かなくなるまで攻め続けた。そして、福岡は、これまでの多くの試合がそうであったように、自分たちの目指すサッカーを表現することのないままに勝点を落とした。「後半は自分たちの方が圧倒出来たと思っている」と試合を振り返ったオズワルド アルディレス監督の言葉に反論できるものは、この日のレベルファイブスタジアムにはいなかった。

開始直後の40秒。町田の最終ラインの裏に飛び出したオズマールがＧＫ修行智仁との１対１のシーンから右足を振り抜く。シュートはポストの左に外れたが、福岡サポーターに「今日こそは」という期待を抱かせるには十分すぎるシーンだった。
しかし、試合の主導権を握ったのは町田だった。前へ出る姿勢を前面に押し出して戦う町田は、小気味よいリズムでボールを回しながら、福岡の守備ブロックをかいくぐってゴールを目指す。攻撃の中心になるのは中盤の底でボールを捌く太田康介。そして左サイドからは、津田和樹が和田拓三の背後のスペースへ飛び出してチャンスを演出していく。
それでも先制点は福岡に生まれる。時間は14分。相手のパスミスを奪った岡田隆が素早く左サイドへ展開。そして、成岡翔がタメを作ってから送りこんだクロスボールを城後寿が難しい体制から折り返し、最後はオズマールが頭で押し込んだ。苦しい時間帯を凌ぎ、相手のミスに乗じて、素早く守から攻へ切り替えて奪った先制点。これで流れに乗れる。誰もが、そう思ったはずだ。

だが、町田は主導権を譲らなかった。そして26分、町田は同点ゴールを奪うことに成功する。ゴールシーンを演出したのは太田と津田の２人。太田のサイドチェンジから、タイミング良く左サイドの裏にあるスペースを陥れた津田がゴール前へとボールを送る。そして、フィニッシュはドラガン ディミッチ。対峙する山口和樹をワンフェイントでかわし右足を振り抜いた。そして、32分には薗田淳に代えて勝又慶典を投入。３−５−２の布陣を４−４−２に変えてリズムを刻む。ここからは一方的な町田のペース。さらに後半に入ると、前への勢いを増して福岡を圧倒した。
町田にとって惜しまれるのは、あと一歩の力が足りずにゴールが奪えなかったこと。アルディレス監督は「いろんな部分で少しの所が足りなかった。それは選手間のコンビネーションであったり、信じてプレーするということだったりだと思う。本当にいろんな意味で少しずつレベルアップしなければいけない」と試合を振り返る。
しかし、Ｊ２残留を目指す町田にとって、この日手に入れた勝点１は貴重な勝点。ゴールへ向かう姿勢を表現した内容は、残り８試合を戦うに当たっての手応えを感じさせるものだった。そして、次節は残留争いを演じる富山との直接対決を迎える。「今日のような試合を、しっかりつなげることが大事になる。今日出来たことを次にできなかったら、何も意味がない」（津田）。その言葉はチーム全員に共通する想いだ。

そして福岡。「相手が前半の途中から（布陣を）変えてきたが、その組み立てに対して自分たちの守備がはまらずに、後手後手を踏んでゴール前まで運ばれて、走らされて、ほとんど相手のペースだった」とは成岡の弁。「守備に関しては、自分たちが意図してボールを取れたのは、ほとんどなかったと思うし、取りどころがハッキリしなかったのが一番の問題だったかなと思う」と古賀正紘も振り返る。これまでの試合がそうであったように、この日も守備面に問題を抱えて勝点を落とした。そして最大の問題点は、34試合を戦ってもなお、チームのやりたいサッカーが見えないことだ。
「毎回、毎回、勝つつもりでやっているが、それが結果に現れないのは本当にふがいない。このまま行ってしまったら何も残らない。アビスパがどういうサッカーをしたいのかということをみんなに示す必要がある」（古賀正紘）
残る試合は８、そしてホームゲームは４。いま福岡がしなければいけないことは、躍動する福岡の姿を待ちわびるサポーターの前で、自分たちの想いを余すことなく表現することだ。

以上

2012.09.18 Reported by 中倉一志