青い目をした男は「約束なんてできないよ」と言って笑った。でも、「ただし」と付け加えて「ゴールをしたとき、ファン、サポーターの下へと駆け寄るよ。喜びは一人のものじゃないし、みんなで分かち合うものだからね。でも、それがいつになるかは約束できないけど」と話してまた笑った。その会話を交わした4日後、味の素スタジアムの歓声を一人占めした主役はゴール裏に向かって叫んでいた。
前半は、磐田のゲームだった。前線からプレスを仕掛けてボールホルダーから自由を奪い、最終ラインの4人はペナ幅に距離を保って中央を固めた。この見事な守りに、F東京は成す術がなかった。
F東京は前線からのプレスがまったくと言っていいほど、機能していなかった。主導権争いで重要な中盤でボールを奪うためのプレッシャーも、誘い込みもできていない状態が続いた。「今日の前半の藤田は、まるでベッケンバウアーのようだった」とランコ ポポヴィッチ監督が言うのも無理がない。最終ラインから次々と良質の縦パスが入った。中盤の長谷川アーリアジャスールと、米本拓司も狙いが絞れずアプローチが遅れ、ボールの取りどころを失っていた。
そして9分、右サイドから山田大記がゴール前を横切るボールを入れた。ニアサイドに気を取られたF東京のDF陣を横目に、ファーサイドへと走り込んだ菅沼実が頭で合わせて先制のゴールを奪った。このゴールを境に、徐々に試合は硬直。磐田のつくるブロックに対し、F東京は意固地に中央から攻めて奪われてショートカウンターという最悪の展開が続いた。ただし、磐田も追加点が奪いきれず、スコアは1−0のまま前半を終えた。
その前半から一変。後半に入って流れが変わった。F東京はネマニャ ヴチチェヴィッチを投入し、梶山陽平を一列下げた。守備時は4−4−2となり前線のルーカスとエジミウソンからプレッシャーを仕掛けた。これによって中盤でボールが奪えるようになると、オープンな打ち合いへと転じた。加えて指揮官が「幅を使えるようになった」と語ったように、硬い中央を避けてボールがサイドへと流れるようになる。これが点に結びついた。
54分、長谷川アーリアジャスールが左サイドにスルーパスを通す。これに抜け出した石川直宏がヴチチェヴィッチに合わせたが、一度はGKに阻まれる。しかしゴール前に詰めたエジミウソンが押し込んで試合を振り出しに戻した。
磐田も山崎亮平、阿部吉朗を投入して反撃に出た。75分には、ゴール前に阿部が抜け出し、フリーの山崎が右足でゴールを狙ったが、DF徳永悠平にブロックされて決定機を逃してしまう。一進一退の首を左右に振る展開がその後も続くが、両チームともにゴールを奪えないまま時間が過ぎていった。
F東京は、80分に最後のカードを切った。エジミウソンに代えて渡邉千真を投入。この交代が実った。アーリアからのパスを受け取った渡邉が右サイドの深くまで切り込んで中央へとボールを送った。そこに走り込んだのがヴチチェヴィッチだった。渡邉からの折り返しを合わすと、ゴールネットを豪快に揺らした。この逆転ゴールに味スタが沸いた。得点を奪ったヴチチェヴィッチは、約束どおりゴール裏へと駆け寄る。両手を振り上げて歓声を一身に浴びた。その後、磐田も次々とシュートを放って反抗したが、GK権田修一がそれをストップし、2−1でF東京が勝利を手にした。
試合後、ヴチチェヴィッチは大勢の記者に囲まれ、ジョークも交えて上機嫌で質問に答えていた。すると、青い目の片側を閉じて「どうだ」の合図に思わず拍手を送った。ネマニャ・ヴチチェヴィッチ。ちょっと舌を噛みそうな名前は、約束を守る男の名だった。愛媛で活躍中の誰かが溝に落ちたこともあったF東京のゴール裏前のアンソロジーにまた一つエピソードが加わった。
ゲームに勝利したのはF東京だったが、磐田も素晴らしかった。守備だけでなく、クロスの入り方、ボールの動かし方など、チームがこれまで取り組んできた成果が体現するサッカーからは読み取れた。森下仁志監督は「人生と一緒で男としても諦めた時点で終わりなので。諦める必要はありませんし、まだ7試合あります。また次に、ダービーというすばらしいゲームも待っている。みんなで団結してより高いところにいけるようにまた頑張っていきたいと思います」と言った。残り7試合。「やり残したことがないように常に全力を出し切る」はポポヴィッチ監督の常套句だが、両チームの指揮官に共通したサッカーにおける選択眼だと言っていいはずだ。F東京も、磐田も、この後に待ち受けるたまらない感動を迎えるためにはまた今日から一歩ずつ進んでいくしかない。結局はその積み重ねだ。
以上
2012.09.30 Reported by 馬場康平
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