決戦前日に「1回落ちた時の、あんな辛い思いはもうしたくない」と話していた北本久仁衛は、広島戦終了のホイッスルが鳴り響いた後、ペナルティサークル付近で頭を抱えた。そして前方でピッチに倒れ込む大久保嘉人に近づき、手を差し伸べた。スペインのマジョルカ時代とC大阪時代に残留争いを勝ち抜いた背番号10は、ピッチに倒れていた時の心境を「終わっちゃったなという感じでした。あの時は何も考えられなかったんで」と振り返った。
今季3人の監督が指揮を執り、確固たるスタイルを築くことができなかった神戸の結末は、J2降格という厳しい現実だった。和田昌裕元監督が目指した速攻と遅攻の融合は志半ばで終わり、西野朗前監督のパスサッカーはある程度の浸透を見せたが結果に結びつかず。2人の指揮官が築いてきたものをベースに、安達亮監督が最も重圧の掛かるラスト3節を率いたが、チーム再建の時間が限られる中で積上げられた勝点は3。王者・広島との最終節は、そんな紆余曲折を続けた今季を象徴するような内容だった。
前半。落ち着いてゲームに入った神戸は、スカウティング通り、広島の青山敏弘や森崎和幸から前線に入るパスを狙ってボールを奪い、カウンター攻撃につなげた。6分にはボランチの橋本英郎のインターセプトからリズム良くパスを回し、最後は右サイドの野沢拓也がクロスを上げるシーンも生まれる。続く8分には奥井諒がインターセプトから同じようにクロスまで持っていった。また、12分には三原雅俊、14分には大久保がペナルティエリア外からミドルシュートを放つ。広島にボールを回されながらも、安達監督が「前半は先制点こそ何かの形でほしかったけれど、割とプラン通りに試合は運べたと思います」と振り返るように、神戸がやや優位にゲームを進めた。広島のシュートは前半わずかに1本。森保一監督は会見で「神戸も残留争いしている中で前半から非常に激しい、厳しいプレーで我々にプレッシャーをかけてきて、我慢の展開だった」と前半を評している。だが、この展開で1点が奪えないのが、今季の神戸でもあった。
前半終了時点での残留争いの経過は、G大阪とC大阪が共に1点ビハインド、神戸がドロー、新潟が2点リード。この結果を受け、神戸は勝利しないと残留できない状況で運命のラスト45分を迎えることとなる。
その後半。序盤で流れをつかんだのは広島だった。46分には「先に点を取られるのが嫌だった」と言う高萩洋次郎が強烈なミドルシュートを放つと、その4分後には高萩が後方からの浮き球を絶妙なトラップで収め、右サイドの石川大徳へ展開。それを石川がペナルティエリア内の佐藤寿人へ速いクロスを入れる。完全に崩された神戸は、北本がたまらずファウルを犯してPKを与えてしまう。広島はこのPKを森崎浩司がきっちりと決め、遠路駆けつけてくれた多くの広島サポーターに向け、ゆりかごパフォーマンスを披露した。
先制した広島は強かった。森脇良太、千葉和彦、水本裕貴の3バックに石川、清水航平を加えた5枚を中心に守備のブロックを組むと、前掛かりになってスペースができた神戸の陣形をかいくぐるようにパスを通していく。この状況を打破するために、神戸は56分に相手DFの前でリズムを作れる森岡亮太を投入。64分には高さのある田代有三をピッチに送り込み、必死で同点ゴールを奪いにいった。その采配が的中し、69分には左サイドでボールをキープした森岡が田代とのパス交換でペナルティエリア内に侵入し、強烈なシュートを放つ。これは惜しくも広島のGK西川周作にブロックされたものの、72分には途中出場の岩波拓也からのタテパスを受けた森岡が左サイドの相馬崇人へ展開し、最後は相馬のクロスを都倉賢が合わせる好機も演出。だが、なかなか広島ゴールをこじ開けられない。82分のFKではGK以外の全員がセットプレーに参加するなど死力を尽くした神戸だったが、結果的に得点につなげられないまま試合終了を迎えることになった。
試合終了後、北本が頭を抱え、大久保が倒れ込んでいる傍らで、広島の選手たちは勝利を喜んだ。森保監督は「この試合に臨むにあたって、今シーズンの最終節ということで、これまで我々がやってきたことをこの試合で全て出そうと言いました。選手もこの1年間培って、学んできたことをこの試合に出してくれたと思います」と選手たちを讃えた。広島にとってはタイトルも残留も掛かっていないゲームだったが、高萩が「リーグ戦は34試合。そこまではきっちり戦わないといけないし、多くのサポーターが今日も来てくれていた。そういう意味でも勝つことはプロとして必要なこと」と話すように最後まで勝利にこだわった。サポーターと共にJ2降格からJ1の頂点に這い上がってきた広島らしい回答だった。
激闘の後、ホームズスタジアム神戸ではヴィッセル神戸のセレモニーが行われた。残留争い3試合を指揮した安達亮監督は目頭を熱くさせ、何度も声を詰まらせながら次のように挨拶した。「本日、このホムスタに集まってくださった皆さんにお願いがあります。まず、残留のプレッシャーと最後まで戦った選手、スタッフらに拍手を送ってください。(スタジアムが拍手で包まれた後)次に優勝が決まっている中、神戸まで足を運んでくださった広島サポーターの皆様、本当にうれしかったです。我々は1年間、精一杯やったつもりです。でも、このクラブではJ1で戦えないということです。(中略)広島と満員のホムスタで試合できたことを幸せに思います」
神戸は来季J2で戦う。誰も望んでいない結末であり、非常に悲しい現実である。だが、その引導を渡されたのが他のどのチームでもなく、苦しい時期を乗り越えてチャンピオンになった広島で少し救われたような気もする。この1戦を通して、これから神戸が歩むべき道を示してくれたように感じるからである。
この悔しさは忘れない。2年後、再びJ1を舞台に大きく飛躍するために。
広島戦の前日、「全てのプレッシャーを自分が背負ってでも試合に出たい」と語っていた主将の吉田孝行は、ケガに泣かされた自身の今季を振り返り「責任を感じています」とサポーターに謝罪した。そして涙を拭った後、声を振り絞ってこう続けた。「しかし、クラブに下を向いている時間はない。1年でJ1に戻ってこられるように頑張っていきます」
以上
2012.12.02 Reported by 白井邦彦
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