緊張と気負い。徳島の選手たちは明らかにそれらに支配されていた。もちろん、開幕戦は相当気持ちが昂る特別なゲームだけに多少そうなるのは仕方のないことだが、それでもこの一戦においては全員がその2つを誰の目にも分かるほどの大きさで背負ってしまっていたと言えよう。
そしてそこへ神戸の圧力も加わって、徳島は準備してきた自分たちの戦いをほとんど実践できず…。結果、大事な初戦を落とし、シーズンを黒星でスタートさせることとなった。
「ホームでの開幕戦でしたし、全員が勝ちたいという気持ちで試合に臨みました」とはゲームキャプテンを務めた那須川将大の言葉だが、皮肉にもその想いの強さは選手たちの体と頭を硬くするという悪い方へ出てしまう。立ち上がりから、ビルドアップのパスやロングフィードに精度を大きく欠き、また局面での判断も遅れがちになってチームは全くと言っていいほど攻撃のリズムを作れなかったのである。さらに守備においてもその影響が現れていたと言わざるを得ないだろう。一歩目が思うように動かないことでグループとしての連動感あるプレスが全くかけられず、個々のポジショニングにも冷静でないが故の曖昧さがハッキリと見て取れた。
まさに何も形にならない苦しい状態。それが今季最初の45分の徳島の姿であった。神戸のシュートミスにも助けられてスコアを持ちこたえた(0-0)ことだけは幸いであったが。
しかし、何とか保っていたそのスコアも後半開始間もなくに崩されてしまった。50分、ハーフウェーライン付近右サイドでスローインを受けたボランチ・柴崎晃誠が激しい神戸の包み込みによってボールを奪われると、そこからあっという間のカウンターを受けてネットを揺らされたのである。
ただこの失点を招いた要因は決して柴崎のボールロストだけではない。最も近くでサポートし角度的に柴崎からボールを引き取ってやらねばならなかった大久保裕樹は、自らパスが受けにくい位置へ近付いていってしまった上に切り替えで遅れを取って小川慶治朗(この小川がゴールを記録)に置いていかれ、「(カウンターの起点を作られた田代有三を)マークできずただ下がってしまった」と小林伸二監督も語っていたように、残っていた三木隆司と那須川のカウンターに対するリスク管理がマズかったのも事実だ。どちらも普段ならきっともっといい選択が出来ていたはずだけに、ここでも平常心や冷静さの欠如が出てしまったと言えよう。
ゲーム終盤には、途中投入された斉藤大介とドウグラスを中心に徳島も幾らか緊張と気負いを払いのけて反撃の雰囲気を作り始めた。ただ、時すでに遅し。パワープレーでこそゴール前へ押し込んでも、連携を高めて神戸の守備陣を崩すまでには至らず、結局チームはそのまま終了のホイッスルを聞くことになってしまった。
そうした内容から考えると、この一戦における徳島の本当の敵は自分たちだったと言えるのではないだろうか。神戸に勝利したいと考え過ぎたあまり、選手たちは自身に勝つという何より大切なことが出来ていなかったように思われる。
とは言え小さくない緊張と気負いを持っていたのは神戸も同じだ。そのため、序盤などはらしからぬミスもあり、「大味な感じになってしまった(安達亮監督)」ことは否めない。ただ、それを途中からでもしっかり立て直すというところで徳島との差を見せ、その差によって勝利を掴んだのだから、やはり選手たちの力はさすが。それには昨季までJ1でもまれた一枚上のレベルを確かに感じた。
さらに神戸について言うと、組織として戦いを進めていく姿勢がしっかり見えていたのは間違いない。実際チームがいいペースを持ち始めた後半は、ボランチの橋本英郎とエステバンを軸にボールを全員でよく動かして徳島に全く奪い所を絞らせなかった。安達監督は「2点目を取りにいくというところで考えると雑なプレーが多かった」と選手たちに反省を求めていたが、それでもチームは今後に向けて理想的な方向を向いていると言えるだろう。
次節はホーム開幕となる岐阜戦。1年でのJ1復帰を目指し神戸はそこで連勝でのスタートダッシュを狙う。
以上
2013.03.04 Reported by 松下英樹
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