風はまだ冷たく、陽が落ちた試合後は肌寒さを感じたが、本城陸上競技場に向かう電車から見えた菜の花畑に、もうそこまで来ている春の到来を感じた。
いよいよ当日を迎えたホーム本城での2013シーズン開幕戦。そこには、この日を待ちわびたファンやサポーター、家族連れが集い、新シーズンに向けて新たな一歩を踏む、新チームに大きな期待を寄せる、希望に満ち溢れた顔が並んでいた。
新しいユニフォームに身を包み、新作のゲーフラを掲げ、新たに作ったチャントの練習に余念が無かった。
今日から始まる長いシーズン、チームと共に喜びも悲しみも分かち合う事を誓って。
開幕スタメンは両チームとも、若干の修正を余儀無くされた。
北九州はダブルボランチの4−4−2のシステムだったが、エースの池元友樹を故障で欠いた。柱谷幸一監督は、FW大島秀夫のコンビに、足下の技術が高いナム イルウをチョイス。
後ろの4枚には、前田和哉以外はルーキーを使うフレッシュなメンバー構成で挑んだ。
対する富山は、今年キャンプから取り組んで来た、中盤がダイアモンド型の3−6−1。3バックの前にアンカーを置き、その前の中盤の4人が後ろから繋いで来たボールを、ポジションを流動的に変えながら、前線まで運ぶ。しっかりと、イニシアチブを自分達が握る、新たな攻撃スタイルに変貌した。ただこちらも故障とインフルエンザにより、キャンプから好調を維持していた、アンカーの森泰次郎と、CBの御厨貴文を欠く苦しい布陣。
安間貴義監督はその位置に大西容平と平出涼を起用し、ピッチに送り出した。
15時04分にキックオフされた試合、先にチャンスを掴んだのはホームの北九州だった。開幕戦で緊張していたのは、富山も同じ。北九州の右サイドからチャンスを作られ、波状攻撃を浴びるも、GK守田達弥が体を張ったプレーでピンチを防ぐと、チームは落ち着きを取り戻し、徐々にゲームの主導権を握り始める。
「0−0の状態であれば、勝ち切れる自信はあった」と柱谷幸一監督が話していた様に、先ずは失点しない事を考えていた前半のプランだったが、若い選手達は受け身になってしまい、その心の隙を富山に突かれ、前半の12分にカウンターから失点してしまう。
攻撃も、両サイドから仕掛けてはいったが、3人目の動きが無く、厚みを持たせる事が出来無かった。ただ、今シーズンからサイドに移った渡大生が、サイドからゴール前に何度か仕掛ける場面や、前線でターゲットマンの大島にボールが良く収まっていた事は、僅かながら相手に脅威を与える事ができ、後半に期待を持たせてくれた。
後半、早く同点に追いつきたかった北九州だったが52分、左サイドから簡単にクロスを上げられると、中で待っていた木村勝太に頭で合わせられ、追加点を奪われ苦しい展開に。
もう攻めるしか無くなった北九州は中盤を1枚削り攻撃的な選手を次々に投入し、富山ディフェンス陣に圧力を掛けていった。
相手の背後をシンプルに狙う作戦が功を奏し、北九州はゴール前のチャンスは増えたが、肝心の所での精度、消極的な判断、富山の粘り強い守備にゴールを割る事が出来ず、時間だけが過ぎて行った。
このまま負けるにも、何か次に繋がるモノが必要だと感じていた時、最後のカードとして、柿本健太がピッチに送り込まれた。
地元の大声援を背に受けた男は、最初のプレー、ファーストタッチで、それに応えて見せた。
ハーフウェイライン左から松本陽介がゴール前にクロスを上げると、キム ドンフィがシュートを放つが、GK守田にブロックされ、こぼれたボールは柿本の前に。それを躊躇する事無く、思い切り右足を振り抜くと、相手DF舩津徹也に当たって舞い上がったボールは、勢いそのままにゴールに吸い込まれ、初シュートがプロ初ゴールとなり、本城は割れんばかりの歓声が響いた。
その後も柿本にボールを集め、同点を狙うがタイムアップ。
後半は盛り返したが、北九州はホーム開幕戦を白星で飾る事は出来なかった。
北九州は新加入の選手が多く、新しい監督になったばかり。チーム戦術の完成度は下から数えた方が早いかもしれない。まだまだ攻撃面での連携に時間が掛かる事はハッキリした。ただ、守備面に限って言えば、早急に改善出来ると思う。個人で行く場面が多々見られ、組織で守っている印象は薄かった。ここを先ずは修正して、前半戦は勝点を拾って行きたい。
対する富山は当初の先発メンバーが変わったにも関わらず、組織として戦えたのが大きい。「キャンプから選手達と取り組んで来た事が、具現化出来たのは必然だった」と、安間監督が話した様に、誰が試合に出ても、相手に攻撃されていても、自分達がイニシアチブを握れる様になった。昨年苦しんだ経験が今年のシーズンには生きてきそうな、そんな予感を感じされる、新しい富山の戦いだった。
以上
2013.03.04 Reported by 坂本真
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