開幕戦で好スタートを切った横浜FC。意欲的な補強で昨年のリベンジを誓う徳島。第2節で激突した昇格候補同士の対戦は、シーズン序盤ということでまだまだチームとしての完成度は高くないとしても、まるでシーズン終盤の昇格争い直接対決のような、ゴールへの執念むき出しの好ゲームとなった。その熱は、煙霧と強風という悪コンディションをものともしないものだった。

幕開けは、7分の横浜FC・野上結貴の先制点。「立ち上がり思い切り硬かった」と徳島・小林伸二監督が振り返ったが、横浜FCは立ち上がりから持ち前のポゼッション力で完全にピッチを支配し、何度も波状攻撃を仕掛ける中で得たフリーキックで、大久保哲哉の折り返しをヘディングでたたき込む。その後も、横浜FCが優勢で進めるが、徳島・柴崎晃誠が前を向いてボールを持つシーンが徐々に増えてくる。柴崎がひとたび前向きにボールを持てば、オーバーラップのための時間を作り、左右に散らし、ラストパスを送ることができる。前半、時間を追うごとに柴崎と周囲との連携が良くなっていく。そして、37分、その柴崎がマッチアップする松下裕樹を巧妙にかわして、高崎寛之に送ると、高崎から大崎淳矢へのパスは一度ははじかれるが、そのこぼれに再び柴崎が素早く反応。驚くほど冷静に左足で流し込み同点に追いつく。

後半に入ると、風上に立った徳島が、高崎のポストプレーと、柴崎を中心とするパスワークで、逆に横浜FCを押し込めるようになる。しかし、この均衡を破ったのは横浜FC。53分、松下からパスを受けた武岡優斗がワンタッチで寺田紳一に送ると、その寺田が持ち込み、芸術的なミドルシュートをゴール左隅に決める。寺田本人は「チェンジアップ」と謙遜するが、ゴール左側から巻いて入る軌道は非常に美しい、まさにゴラッソだった。ただ、後半に入り陣形が間延びするなか、主導権を握りつづけたのは徳島であり、その執念が再び同点劇につながる。62分、横浜FCのクリアが不十分なところ、那須川将大が拾い、高崎がヘッドでスペースに出すと、那須川がダイレクトボレーでゴール左隅にたたき込む。まさにゴラッソの応酬。その後も、両クラブは勝点3を求めてゴールに迫るが、そのゴールへの執念をピッチ上に残したまま、ゲームは2-2のドローで終了。

横浜FCにとっては、2度勝ち越しながら追いつかれたという意味では、勝点2を失ったように感じられるかもしれない。しかし、柴崎晃誠というJ2を超えたタレントが徳島に輝きをもたらしたこの試合の内容を考えるのであれば、これはJ1昇格のために超えなければいけないハードルを与えられたと考えるべきだろう。西嶋弘之が「横浜FCのサッカーは出せた部分もあるし、その反面、ちょっとした隙とか、そういうところで失点した。ある程度自分たちの組織は機能していた中での失点だったので、ちょっとした隙、甘さを無くして、もっと堅いチームにしないといけない」と振り返ったように、横浜FCのスタイルそのものは十分にピッチで表現できている。まだまだ序盤であり、この試合で浮き上がった守備面での甘さを克服していくことがJ1への道となる。

徳島にとっては、開幕戦となる神戸戦でエステバン（神戸）に封じられて機能しなかったボランチが本領を発揮し、やっているサッカーの方向性に自信を持てるゲームとなった。斉藤大介は「どちらが勝っても不思議でないゲーム。ただ、アウェイでも勝点3が取れたゲームだった」と振り返ったが、この試合のスタイルを続けていけば、今年目指す、丁寧にビルドアップするサッカーでJ2に大きなインパクトを与えられる予感が持てた。

公式記録上のシュート数は、横浜FC10本、徳島12本だが、体感的にはそれよりも遙かに多いシュートがあったのではないかと感じられた。このようなゲームはチーム作りの上で大きなプラスになる。お互いに、攻めの姿勢を貫いたということで言えば、勝点1以上の収穫を両クラブにもたらしたと言えるのではないだろうか。そして、この日、雨こそないが、観戦コンディションとしては良くなかったにも関わらず、ニッパツ三ツ沢球技場に集まった8,437人のファンにとっても、また足を運びたくなるゲームだったことは間違いない。横浜FCと徳島の両クラブにとって、結果は勝点1にとどまったが、今後が楽しみになるゲームだった。

以上

2013.03.11 Reported by 松尾真一郎