2点目を決めた後、神戸の田代有三は4本の指を立て、メインスタンドへかざした。意味するところは背番号“4”。5日前の3月6日から、肋骨の腫瘍切除のため一時休養に入った北本久仁衛が背負うナンバーだ。奇しくも神戸がこの試合で挙げたゴールも“4”。田代が「クニさん(北本)は一番ピッチに立ちたかった人。誰よりもその想いは強いし、今までヴィッセルを支えてきた選手。クニさんへの気持ちをもって、今日はみんなが臨めたと思います」と話すように、チーム一丸で“鉄人”に捧げた4発だった。
開幕のアウェイ徳島戦を勝利で飾った神戸は、今節の岐阜戦でスタメンを5人かえた。田代有三とポポの2トップ、ケガから復帰した相馬崇人、中盤には新加入のマジーニョを起用。この4人に関してはポジティブな変更と言っていいだろう。
だが、センターバックのイ グァンソンに関しては、必ずしも前向きな起用ではなかった。一時休養の北本に加え、キャプテンの河本裕之が試合5日前の練習で負傷。開幕戦で安定したプレーを見せた岩波拓也はさておき、今季ケガで出遅れていたイ グァンソンのコンディションには不安が残っていた。安達亮監督も試合5日前の練習では、グァンソンのフィジカルコンディションについて「どう言ったらいいのかなぁ。ん〜65点(笑)」と苦笑い。岐阜戦の前半立ち上がりには、2度ほどボールを後ろへ逸らしてしまうシーンもあった。
だが、前半22分、自他ともに抱えていた不安をグァンソン自ら払拭してみせた。
前半15分に田代が技ありボレーで先制点を上げた後のFK。マジーニョからの絶妙なプレースキックをグァンソンが頭で合わせて2点目を挙げた。マッチアップした岐阜の長身DFデズモンドの、はるか上をいく高い打点のヘディングシュート。本人も「(ケガで出遅れたことなどの不安を)あのゴールで色々なことを払拭できた」と納得できる完璧なゴールだった。田代の先制点で岐阜の勢いを止め、グァンソンの追加点で流れを引き寄せた神戸は、その後の主導権を握り再三チャンスを作った。だが、結局は前半を0-0で折り返す。
後半、岐阜はパスの配球に秀でたDF登録の尾泉大樹に代えて、自ら果敢に仕掛けるMF清本拓己を投入。攻撃のリズムを変えることで神戸ゴールへと迫った。だが、神戸はボランチのエステバンが次々と岐阜の攻撃の芽を摘んでいく。気がつけば再び神戸がゲームのタスクを握っていた。そして63分に相馬崇人のスルーパスを受けたポポがドリブルで突っかけ、田代へラストパス。それを田代が豪快に右足を振り抜いてダメ押しの3点目。続く73分には左サイドでのマジーニョのドリブル突破から最後はポポが反転して相手DFを交わして4点目。その後は岐阜が攻撃に枚数を掛けて何度もペナルティエリア内に侵入したが、結局はノーゴールで試合終了。神戸がゴールラッシュで開幕2連勝を飾り首位に立った。
試合後、岐阜の行徳浩二監督は「やはり1対1の状況での差が出てしまった」と振り返った。シュート数が神戸20に対して、岐阜8というデータを見ても神戸が1枚上だったと言えるだろう。だが、岐阜にとって今日の戦いは、ロングフィードを多用した前節と比べれば「ボールを回す、テンポを上げることに関しては前節よりも格段にできた」(行徳監督)と言える。DF関田寛士も「(今日はは)今までのサッカーより、一つも二つも違ったかなと。みんながパスを意識したというか、そこの部分では一つ段階は上がったと思います」と言う。引いて守るのではなく、自分たちの目指すサッカーを貫こうとした姿勢は、岐阜にとって実りある試合だったのかもしれない。
神戸にとってはまずは勝点3。その上で、安達監督は「メンバーが開幕戦から河本が怪我してグァンソン、(大屋)翼のところが相馬、中盤がマジーニョ、前がポポと(田代)有三という、スタートが5人代わったんですけれど、普段選手がチーム内で競争してくれていて、今日そのメンバーに踏み切れたのも実は18人の中に入らなかった選手の影響もすごく大きかった」と語った。長丁場を勝ち抜くためには選手層の厚さは不可欠である。そういう意味で多くの選手を試せた岐阜戦は、これからの神戸にとって貴重な一戦となるに違いない。
以上
2013.03.11 Reported by 白井邦彦
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