名古屋にとって湘南戦といえば、何はともあれ2010年のことが思い出される。11月20日、J1リーグ31節、平塚競技場(現Shonan BMWスタジアム平塚)。阿部翔平のサイドチェンジを杉本恵太(現HOYO大分)が受け、クロスを玉田圭司が頭で押し込んで決勝点。クラブ史上初のリーグタイトル獲得を決めた一戦は、今も名古屋の選手、スタッフ、サポーターの心に深く刻まれている。3年ぶりにJ1に復帰してきた湘南との一戦は、そうした少しのノスタルジーとともにキックオフの時を迎える。
もっとも、現在の名古屋の選手、スタッフに聞けば「3年前のことにいつまでも浸っていられない」という返答が返ってくる。それは当然のことで、しかも現在の成績は良好と言えないからなおさらだ。前週のヤマザキナビスコカップ2試合はホームで引き分け、アウェイで勝利とまずまずだったが、リーグ戦は3試合で1勝1分1敗。今季いまだホームでの勝利がない状況は、フラットに見れば少し危機感を持った方がいいぐらいである。
挽回のための準備は整いつつある。ヤマザキナビスコカップの2試合でようやく現状での戦い方のメドが立った上に、負傷者もほぼ戦列に復帰してきた。主だった離脱者は藤本淳吾、ケネディ、石櫃洋祐といったあたりで、ケネディはトレーニングをフルメニューで消化するまで回復してきている。いまだ対人での本格的なトレーニングに至っていないため、今節でのメンバー入りは微妙なところだが、これもまたチームにとっては朗報の一つだ。その他のメンバーについてはヤマザキナビスコカップの鳥栖戦を欠場した田中マルクス闘莉王も試合出場へ向けた調整を続けており、快勝と言えた一戦からは上積みをして湘南との戦いに臨めることになった。
湘南もまた特に成績面では大苦戦を強いられている。リーグ3試合で2分1敗、ヤマザキナビスコカップも1敗と今季はいまだ勝点3を獲得できていない。若くバイタリティーあふれる選手が揃い、曹貴裁監督の高い指導力が感じられる好チームだが、今のところはJ1の壁に阻まれている印象だ。3−4−2−1を基本としたフレキシブルな布陣でパスをつないでいく攻撃と、ボールに厳しくアプローチする積極的なディフェンスは見ていて非常に面白いもの。中心選手であるボランチの永木亮太や梶川諒太、攻撃的MF菊池大介、ウイングバックの古林将太などは技術レベルも高く、スピード抜群の高山薫や奇抜なヘアスタイルでも注目を集めるFWキリノなど個性的なタレントも見所十分。“湘南の暴れん坊”は通り名にふさわしい個性派集団であると言えるだけに、勝利という結果で手応えを倍増させたいところだ。
今回の対戦は誰もが想像する通り、名古屋の“個”と湘南の“組織”がどのようなパワーバランスに落ち着くかが試合の趨勢を決めることになる。サンプルとなるのは名古屋のリーグ3節甲府戦と、湘南のヤマザキナビスコカップ2節大宮戦だ。名古屋は甲府戦において相手の組織的なボール回しにプレスが空転し、思わぬ劣勢にさらされた。今回も流動的かつ運動量も多い湘南のポゼッションに守備で後手を踏むようなことがあれば、自慢の個人能力も半減し、苦戦する可能性も出てくる。逆に湘南は大宮に対し内容的には五分に渡り合ったが、個々のミスや1対1の部分でピンチを招く場面が多々あり、結果的には3失点。ミスに対する相手の決定力の高さや、組織を構成する個の部分での勝負で相手に上回られると、もろさを露呈する一面がある。
ピッチ上で注目したいゾーンは2つ。まずは湘南のゴール前だ。これまでの名古屋であれば、ここにはケネディや闘莉王、今季でいえば矢野貴章など長身の選手がおり、攻撃の起点あるいはフィニッシャーとして君臨していたが、前週の2試合で新たなバランスを見出しつつある。それが玉田の1トップである。本来はトップ下やサイドで神出鬼没のボールレシーブからチャンスメークを担う玉田は、1トップとしてもやはり同じ動きを繰り返す。結果、オリジナルポジションで最前線には選手がいない状態となるのだが、そこにヤキモフスキーなど中盤の選手が飛び込むことで攻撃に流動性が生まれる好循環を引き出すことになった。パスの出し手も多い名古屋だけに、湘南は全員守備の意識が失点回避へ押さえるべき課題となる。
第二のゾーンは両サイドだ。湘南のサイドには古林、高山という能力の高いウイングバックがおり、名古屋としても警戒しなければいけないポイント。おそらくサイドバックには田中隼磨と本多勇喜がチョイスされることが濃厚で、彼らの勝負は試合の流れを左右する一因となるだろう。逆に名古屋にとっては湘南のウイングバックの背後のスペースはひとつの狙いどころとなる。前述の大宮戦で、湘南はそのスペースにシンプルなフィードを何度も通され、攻撃の起点を作られた。そのリスクを考えれば湘南は4バックを採用する可能性も考えられるが、いずれにせよサイド攻撃は名古屋の代名詞。サイドの敵陣深いポジションは、積極的に突くべきゾーンになる。
名古屋としてはホーム初勝利でドタバタだった3月をうまく締めくくりたいところだ。特にこの試合後からは、中3日と中2日の組み合わせで2週間4試合という非常に過酷な日程が始まる。それは湘南も同様で、勝ってその日程に入るか負けて入るかでは雲泥の差が出てくる。勝てば大胆なローテーションを採用することもできるだろうが、負ければ優先順位はチーム状態の整備が上になってしまい、どうしても主力への負担が大きくなるからだ。計7試合を戦う4月へ向けたアドバンテージを獲得するためにも、この一戦は持つ意味は大きい。3年ぶりとなる両チームの対決は、そういった要素が加味されることでも、白熱の好試合となりそうだ。
以上
2013.03.29 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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