ここまで公式戦未勝利でゴトビ監督の進退問題にも発展しかねない苦境にある清水。対するは、リーグ戦では1勝1分1敗でACLは2連敗と、こちらも思うような結果を出せていない広島。どちらにとってもチームの流れを変える大きな勝点3を手にしたい因縁深い対決だ。

広島にとってのアイスタは、通算の対戦成績が3勝2分15敗と非常に相性が悪く、約16年間勝利がなかった鬼門（2011年5月に勝ってその記録は解消）。逆に清水のほうは、昨年はJ1王者に対して2勝しており、第20節のアウェイゲームでは9戦勝利なしという低迷から脱する逆転勝利を挙げている。そのため清水としては、今回もここで流れを変える1勝を手にしたいという思いが非常に強い。
そのための準備は、チームの流れが悪い中でもかなり前向きにできている。今週の練習で注目されたのは、選手たちが自主的に話し合う場面が増えたことと、11対11のフルコートや実戦のピッチサイズを想定した練習が増えたこと。今までは、週の前半には狭いサイズの中での練習がほとんどだっただけに、火曜日からフルコートでの練習が入ったのは大きな変化と言える。
その狙いをゴトビ監督は、「新しいメンバーや若いメンバーがいて試合中にオーガナイズを失うことがあるので、試合と近い状況や距離感でやらせて、ゲームの中で足りないことを細かく話し合っていけると考えた」と言う。選手たちもそれを前向きに受け止めており、とくに守備面の改善に関しては、積極的に意見を交わしている。やるべきことも明確で、「中盤でしっかりプレッシャーがかからないときが多いので、裏をとられやすくなっている」（ゴトビ監督）と前線からのプレスがうまく機能していないことを改善することが第一。そこは昨年やれていたことを取り戻せば良いので、良いときの感覚を思い出すのは難しくないはずだ。

ただ、攻撃に関しては、急に連係が劇的に良くなるということは難しい。現状ではボールを相手ゴール近くまで運ぶのに苦労しており、なかなかシュートまでいけない展開が続いている。そのためケガからの復帰が濃厚な高木純平は、「今は（ビルドアップで）バタバタしている場面が多いので、自分が出たらボールを持ったときにしっかりと落ち着かせられるようにしたい」と語る。トップ下の八反田康平も、「基本的なことだけど、まずは個人個人が簡単にボールを失わないことが大事。それがチャンスにもつながると思うし、どんな形でもいいからそのチャンスをものにして点を取ることが一番重要」と言う。
とくにバレーや高木俊幸にゴールが出れば、彼ら自身もチームも一気に勢いづくはずなので、攻撃陣が限られたチャンスをしっかりと生かすことが、勝利のためにも、悪い流れを変えるために本当に重要になってくる。

一方、広島のほうは、ここ2週間はACLの試合もなかったため、連戦の疲労を解消しながら、この試合に向けてしっかりと備えてきた。ケガで離脱していた高萩洋次郎の復帰も間近で、右膝を傷めた清水航平は欠場濃厚だが、かなりベストに近いメンバーが揃う見込みだ。
スコアレスドローに終わった前節の鹿島戦後も、森保一監督は「後半は運動量が上がったし、ボールに絡む選手が増えてボールも人も動き出した。良い距離感、良いポジショニングから主導権を握れたと思う。ただ、最後の精度の部分はもっと高めないといけない」と語っており、手応えはけっして悪くない。ここまで公式戦5試合で4ゴールと得点力の部分が課題になっているので、フィニッシュの精度さえ改善されれば、本来の力を発揮できるようになるはずだ。

その意味でも、清水としては絶対に広島に先制点を奪われるわけにはいかない。広島はカウンターも非常に鋭いので、先制されてしまうと焦りからチームがバラバラになり、横浜FM戦や磐田戦のような大量失点パターンに陥りやすいからだ。
つまり、自分たちが先制点を取るまでは、組織をしっかりと保ち、カウンターやセットプレーから失点しないように集中力も保ち、11人がひとつになって戦い続けるしかない。広島のパス回しは他チームとはひと味違うが、それでも我慢強くスペースを与えないように守り続けなければならない。
だが、清水の選手たちにはその覚悟が十分にできている。あとは決めるべきところを決めて、自分たちの力で今季初勝利を引き寄せるだけだ。

以上

2013.03.29 Reported by 前島芳雄