最後まであきらめない姿勢が勝利を引き寄せた。引き分けの雰囲気が漂う後半アディショナルタイム。興梠慎三が懸命のチェイスで山本脩斗のボールをつつき、ボールを拾った原口元気がスライディングをかわして完全に裏に抜け出すと、GK川口能活と1対1のビッグチャンスを迎えた。
「ずっとバスのなかでメッシのゴール集を見ていて、メッシは1対1でだいたい浮かすので、それが出たのかな。あんまりやったことがなかったけど、行き当たりばったりでやったら入った」。原口のシュートはGK川口に当たったが、ボールはゴールマウスへと吸い込まれ、チームを勝利へと導く値千金の決勝弾となった。
試合の立ち上がりからボールを握ったのは浦和だった。守備時に5−3−2と後ろが重くなる磐田は前からボールを取りにくることがあまりなく、浦和が攻めてきたところで跳ね返す守り方をしていたため、自分たちが主導権を握るという展開にはならなかった。磐田は攻撃的なサッカーをするために3バックに変更したという話だったが、守備のための3バックになっていた。
攻勢に出る浦和は17分、原口のパスを受けた興梠がペナルティエリア内で倒されてPKを獲得。待望の今季初ゴールを決めようと興梠が自ら得たPKを蹴ったが、コースが甘くてGK川口のセーブに阻まれてしまう。
チャンスの後にはピンチあり。サッカーではよくありがちなパターンだが、浦和はその数分後に劣勢だった磐田に先制点を奪われる。26分、駒野友一がクロスを入れると、森脇良太がクリアミス。ボールのこぼれてきた先にいたのは前田遼一。今季ここまで無得点の悩めるエースは、まさに転がり込んできたチャンスを逃さずにようやく初ゴールを決めた。
最初のチャンスをゴールに結びつけた磐田だが、リードを奪ったことでさらに消極的になった。最後のところでやられなければいい、とばかりにペナルティエリア手前に人垣を築き、攻撃は可能性の乏しいカウンターのみ。「心理的に受けた部分があったのかなと思う」とは森下仁志監督の弁だが、実際かなり守りに比重をおいたような戦いぶりだった。
一方、ビハインドを負った浦和は点が欲しいから攻勢をかけ続ける。磐田が前からまったくボールを取りにこないため後方でボールを回し放題となり、縦パスも簡単に入れられた。ただ、縦パスが2シャドーや1トップに入った瞬間、後ろに人数の多い磐田の選手たちが次々と襲いかかってくるため、中央では時間やスペースをもらえなかった。
そのまま強引に中から仕掛けても、プレッシャーのなかでパスの精度は落ちる上に、磐田の人垣ができているのでなかなかいい形は作れない。そうなるとラストパスは自然とサイドから出ることが多くなったが、ゴール前は磐田の選手で固められているのでやはりなかなか通らず、浦和はじれったい展開を長い間強いられた。
そのもどかしい状況を打破したのはセットプレーだった。77分、マルシオ リシャルデスのCKから森脇がヘッド。「じれったい思いはあったけど、あの1点を取れて吹っ切れた」。これでスコアはイーブンに戻った。
だが、両者のチーム状況には差があった。同点に追いついた浦和は逆転を狙って意気揚々と攻撃を仕掛け続ける。対する磐田はそれまでの受け身の姿勢から一転して前に出ようとするが、急な方向転換に空回り気味。失点直後にカウンターを受けて大ピンチを招いたように攻守にチグハグな部分が目立ち、後半アディショナルタイムにはCKのカウンターから失点を喫した。
「自分たちが求めているサッカーとは別のサッカーでも勝ち切るのを1つパターンとして持っていかないといけないし、それをまっとうすべき試合だったと思う」。伊野波雅彦がそう話したように、主導権を放棄しても粘って勝利を拾うというのは1つの方法だ。ただ、その戦い方を選択した以上、リードを守りきれなかった時点で磐田の勝つ見込みは限りなく少なくなった。ずっと相手に主導権を渡していた展開から急に手綱を奪い返すのは容易なことではない。シュート数は前半が2本、後半はわずか1本だった。今季リーグ戦初勝利を目指してアウェイの地に乗り込んできた磐田だが、それはお預けとなった。
一方、浦和は4勝1分とリーグ戦では負けなし。勝利が至上命令となる3日後の全北現代戦に向け、弾みのつく結果となった。
以上
2013.04.07 Reported by 神谷正明
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