ポイントは、セカンドボール。
横浜FMの全得点が広島のクリアボールを奪い返したことから生まれた。森崎和幸は「今日の試合では、球際やセカンドボールなど、あらゆる部分で横浜FMに上回られた」と唇を噛んだが、その言葉がもっとも適切だろう。
もちろん、強烈に降り続く雨のために劣化したピッチコンディションが、パスサッカーを得意とする広島を苦しめたことも確かである。エディオンスタジアム広島の水はけはJリーグのスタジアムの中でも高いレベルにあるのだが、それでも激しい雨はピッチの至るところに水たまりをつくった。ここまでの状況に陥ったことは、ここ数年は記憶にない。
しかもやっかいだったのは、前半の立ち上がりはボールが走ったのに、その後に雨が強くなった影響を受け、どんどんピッチに水が溜まっていったこと。最初はつながったパスと同じような感覚で出してもつながらなくなり、その影響で距離感も適切な感覚がつかめない。シンプルな攻撃を最初から徹底してきた横浜FMと違い、広島は自然状況の変化に大きな影響を受けた。特に、広島のサッカーを形作る上で大きな要素である西川周作へのバックパスが使いにくくなったことは、痛かった。いつものサッカーができないストレスがメンタルに影響し、少しずつ広島の集中力を奪っていったのか。
42分のゴールシーンは、中盤で横浜FMがボールを奪い、ショートカウンターを発動させたところから始まる。イタリアやスコットランドでの経験からか全くピッチ状態を苦にしない中村俊輔が、ドリブルで突破を図った。ここは3人がプレスに行き、ミキッチがボールを奪ったのだが、この時の広島はゴールエリアを示すラインの延長線上に7人の選手が並んでいた。同じラインにいた横浜FMの選手は2人。ペナルティエリア付近に3人のアタッカーがいたとはいえ、明白に後ろが重い。1トップ2シャドーはカウンターに備えて前に張っていたため、結果としてボランチの富澤清太郎は完全にフリーとなった。
ミキッチのクリアが小さくなったことが彼の強烈極まりないスーパー・ミドルを引き出してしまったが、遠因は引き過ぎた広島の守備陣形にある。ああまで後ろが重くなっては、セカンドボールが拾えるはずもない。
広島は後半、シンプルに長いボールで裏を狙う戦術に切り替えた。その狙いがはまったのは48分。塩谷司の大きなサイドチェンジを受けた山岸智がクロス。石原直樹がヘッドで落としたボールを高萩洋次郎が豪快に叩き込んだ。
同点。しかし、経験豊富な横浜FMは、慌てない。警戒していたミキッチの仕掛けには齋藤学とドゥトラが二人で対応。4バックは中央に絞って1トップ2シャドーを厳しく監視し、広島のボランチに対しても積極的にプレスをかけて自由を与えない。
そして、勝負をわけた74分のプレーは、広島の甘さと横浜FMの強かさのコントラストが残酷だった。横浜FMのCKを広島が跳ね返したのは2度。しかし、その2度とも横浜FMが奪い返し、二次・三次と攻撃を繰り返して最後は中町公祐が兵藤慎剛とのワンツーで左サイドを突破しての美しいゴール。最初は岡本知剛に齋藤が厳しいアタックを仕掛けてボールを奪い、2度目はクリアボールを収めようとした佐藤寿人のトラップが大きくなったところを富澤がキープした。「どちらかで相手の攻撃を切っていれば」。これが、広島の悔い。そこでボールを奪い返す強さを見せたのが、横浜FMの勢い。クラブ史上初の開幕5連勝、攻守にスキのなさと組織としてのまとまりを見せつけた横浜FMの強さは、しばらく継続するだろう。
今季の広島は、ホームゲームの公式戦で1分4敗。5試合で2得点8失点という結果以上に、その内容が広島らしくない。怪我人が戻ればまた新たな怪我人が出てしまう現状が攻守にわたる歯車を少しずつ狂わせ、広島の生命線であるの連動性を失わせている。相手が徹底して広島の良さを消しにかかるホームゲームではその傾向が顕著だ。
試合後の取材に応えた岡本は時折、言葉を失った。「結果が欲しい」。必死に言葉を絞り出す。無理もない。彼が出場した4試合、全てが敗戦。岡本自身はずっと奮闘を続けているのだが、巡り合わせが悪いのか。敗戦の責任を全て背中に背負い込んでしまったかのように、若者の表情はうつろだった。
しかし、希望を失う必要はない。後半途中から出場した野津田岳人やファン ソッコには、チームを救うパワーの蓄積を感じさせる。86分、二人に水本裕貴が絡んで創った決定機が、その証明。その力はもちろん、鳥栖で経験を積んだ岡本も秘めている。今は爆発への胎動期。溜まったエネルギーが噴出するきっかけは、自分たちの隣にあるものだ。
あがらない雨はない。今はそれを信じて、若者よ、もう一度立ち上がろう。
以上
2013.04.07 Reported by 中野和也
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