タイムアップの瞬間、札幌ドームのスタンドは割れんばかりの歓声で大きく沸いた。試合後の会見でも財前恵一監督は地元メディアからの「ホッとしていますか?」とのストレートな質問に「まあ、そうですね(笑)」と照れながらも笑顔。札幌がこの2013年シーズン、ホームゲームで初勝利を挙げた試合だった。
前半は完全に徳島のゲーム。柴崎晃誠、青山隼で組む守備的MFへのマークが甘いのをいいことに、中盤からテンポよくパスを回す。11分に後方からの簡単なパスで津田知宏が抜け出すチャンスを作ると、18分頃にも再び津田が相手DFラインの背後に入り込んで決定機を作り出す。
徳島の狙いは明確だった。両アウトサイドもしくは前線の高崎寛之をターゲットにして2列目以降の選手の飛び出しを生かすのだが、狙い目は札幌DFラインの背後。今シーズンから新加入のブラジル人CBパウロンと、周囲との連係がまだ成熟していない札幌の最終ライン裏のスペースに角度をつけて入り込むことでマークのズレを誘発し、生み出した。
そんな徳島は21分に高崎がPKを失敗。通常であればPKのピンチをしのいだ札幌側に流れが一気に傾きがちな展開だが、「PKを外した後にもボールを動かしながらリズムを獲得した」と小林伸二監督が振り返ったように、PK失敗は徳島にほとんど影響を与えることなく試合は進行。そして29分、クリアボールを拾った花井聖にDFライン裏へパスを通され、これを受けた大崎淳矢が冷静にゲット。徳島がリードとリズムを得たまま前半を終え、後半へと折り返すことになる。
しかし、後半に入ると流れはガラリと変わる。
「チームとして、1点を取ったところでちょっと安心してしまったようなところがあったと思う」と衛藤裕が評したように、前半は積極的に相手ゴールに迫っていた徳島イレブンだったが、敵地で先制点を奪ってからは「構えてしまった」(小林監督)。同点を狙って前がかりになるホームチームをカウンターで仕留めようと考えたのか、前半のようなアグレッシブさは影をひそめ、ボールへのアプローチが停滞してしまったのである。
そして札幌にとってポイントとなったのは岡本賢明の投入だった。中盤の左サイドに据えられたこの選手は、パスをさばいて攻撃の起点を担うというよりも、ドリブルで勝負を仕掛けていくタイプ。徳島としてはパスをインターセプトしてカウンターに転じるという流れを作りたかったのだろうが、独力でボールを運ばれてはそれも難しい。この岡本を中心とした札幌の攻撃は非常に効果的で、相手を押し込む場面も増えるようになり、流れも変えていく。
また、後半の札幌は前半に比べて縦パスの意識が大きく高まっていた。「前半は後ろでボールをもらう場面が多かったけど、後半は前でボールを受けられるようになっていた」と小山内貴哉が言えば、「外から見ていて、前半は追い越す動きだったり、前を向いてパスを受ける場面が少なかった。自分が入ってからは、そういうプレーを増やすことを意識した」と岡本も口にした。
結果的には、札幌は55分にパウロンが、74分に上原慎也がそれぞれコーナーキックから豪快にヘディングを決めて逆転勝利。そうした得点の推移だけを見れば、セットプレーを生かして合理的に勝利したようにも見て取れるかもしれないが、札幌がそのコーナーキックを得ることができたのはチームとして積極的に前へとボールを運ぶようになったからだろう。
今シーズンここまで、好パフォーマンスを見せながらも勝ちきれなかったり、試合運びの拙さで勝点を拾いきれなかった札幌。だが、最後まで積極的にボールを運んで勝点3を得たことで、勝ちきるためのポイントを掴んだかもしれない。そして、そんな札幌に敗れてしまった徳島にとっても、この試合は今後に向けたターニングポイントになり得ると言っていいだろう。やはり、サッカーというのはアグレッシブに相手ゴールを目指すスポーツ。この両チームさらには見ている人々も、そのことを再確認できた試合だったのではないだろうか。
以上
2013.04.15 Reported by 斉藤宏則
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