今日の試合速報

チケット購入はこちら

J’s GOALニュース

一覧へ

【J1:第6節 広島 vs 鳥栖】レポート:爆発!スーパー・スーパーゴール。セカンドボールを徹底支配した広島、完勝。(13.04.15)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
放ったシュートは6本。数字だけで見れば、物足りない。しかし、広島のサポーターにとっては、そんな数字などよりも遥かに大きな財産を受け取った。2013年度公式戦ホーム初勝利。選手もスタッフも、サポーターも。全広島が待ちこがれた瞬間をもたらしたのは、試合前から「テーマ」として掲げていたセカンドボールの徹底支配による主導権の確保である。

ただ、本質はそこにあるとはいえ、勝利を呼び込んだのは歴史に残るといっていいエースのスーパーゴール。現場で見たその瞬間ももちろん「素晴らしいゴールだ」とは思ったが、後にビデオで見返せば見返すほど、凄みに震えが来た。
ミキッチのクロスに佐藤が飛び込むも、鳥栖のマーカーである小林久晃も身体をしっかりと寄せ、自由を許さない。しかし佐藤は、圧力を受けて体勢を崩しながらもボールから決して視線を外さずに両足を地面につけた。その彼の下に、鳥栖DFの丹羽竜平に当たったボールがワンバウンドで浮いてくる。佐藤は身体を半身にしながらまずボールをチョンと浮かせ、身体を反転させつつ、落ち際をボレーで叩いた。
トラップの直前、彼はマークをずらすために、ほんの半歩分、バックステップを踏んでいる。この一連の動きによって、佐藤は少しの時間とスペースをつくった。ただ、その時間はコンマ数秒であり、スペースは数十センチほど。その「わずかの間」でシュートを打ち、ゴールネットに流し込む。ありえない。普通は、ありえない。
ゴール前は全ての選手の感性が研ぎすまされ、神経過敏なほどにビリビリとした空気感が満ちているものだが、その中でも佐藤寿人の感覚は一人、飛び抜けている。それがストライカーの本質だなんて、簡単に一言で片付けたくない。

森保監督はこのゴールについて「寿人らしい、寿人にしかできない」と絶賛した。
「少しでも(足の)振りが大きくなったり、ボールを止めてしまったら、相手にクリアされたり当たってしまう場面。寿人にしかできない身体の使い方から生まれたゴール」
この得点が広島に勇気を植え付けたことは、論を待たない。ただその前段階には、森崎和幸が奏でる独特のリズムからの「スイッチオン」があり、山岸智からミキッチへ、ピッチ幅を大きく使った展開があり、石原直樹と青山敏弘、ミキッチが創り上げた「三角形」でのパス交換があり、丹羽にクリアの余裕を与えなかった山岸のポジショニングがあった。常々、「自分のゴールは、仲間のサポートがあればこそ」と語っている佐藤寿人だが、この「超絶」と言っていいスーパーゴールの裏側にも、その真実が存在した。

2点目は、1点目以上に「チームの得点」だった。塩谷司が素早い押し上げからクリアボールを拾い、ミキッチにパス。クロスのこぼれ球を拾ったのは、やはり広島だ。山岸がシュートを打つと見せかけ、相手を3人引きつけてのヒールパス。フリーの高萩がシュートの雰囲気を出せば、佐藤のマーカーである小林がシュートコースを切りに行かざるをえない。結果として、鳥栖にとって最大の恐怖である佐藤がフリーになり、高萩のダイレクトパスを1タッチで流し込んだ。セカンドボールを広島が支配したことが即興的なアイディアとシンクロし、この美しい「チームとしてのゴール」を生み出したのだ。

前半から広島は前線から連動した守備が機能し、球際も強く、予測も的確。森崎和幸と青山敏弘を中心にほとんどのセカンドボールを支配した。それでも鳥栖の強固なブロックを突き崩すのは容易ではなかったが、前半は割り切ってゲームのリズムをつかむことに注力して主導権を把握。後半に一気にギアをあげた。思惑が見事に正の方向に働き、ホームスタジアムがエディオンスタジアム広島に名称変更後の初勝利を、スコア以上の完勝で飾ったのである。

90分でシュート2本、CKはゼロ、決定機は一つも創れずに、鳥栖は膝を屈した。攻撃に厚みを持たせようとフォーメーションを3-5-2に変えても、大きな効果は見えず。エース・豊田陽平もほとんどの時間帯で存在を消され、カウンターの隙も与えてもらえなかった。自らのストロングポイントで広島に後手を踏んでしまっては、この結果も順当というしかない。「選手が自信を失っている」と尹晶煥監督は言葉を絞り出したが、自信を取り戻すには試合で結果を出す以外に良薬がない。敗戦を糧とできるか、それとも袋小路に入ってしまうのか。シーズン初頭とはいえ、鳥栖は大きな岐路に立っている雰囲気が漂う。

とはいえ、鳥栖の守備ブロックが前半は機能していたことも、疑いのない事実。そこを打ち破った佐藤寿人のスーパー・スーパーゴールだった。エースがエースとして存在し、チームを勝利に導いてくれた幸福を、試合から一夜あけた今日も、広島サポーターはしみじみと味わっている。

以上

2013.04.15 Reported by 中野和也
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

旬のキーワード

最新動画

詳細へ

2025/12/21(日) 10:00 知られざる副審の日常とジャッジの裏側——Jリーグ プロフェッショナルレフェリー・西橋勲に密着