使い古された言葉ではあるが、J2ではチーム毎の差はほとんど無いし、試合の結果を分ける差はディテールのわずかの差であることを、改めて認識する試合だった。おそらく、やりたいサッカーができたかという問いに対する答えは、横浜FCも長崎も大きな差は無く、それぞれやりたいプレーは出せていただろう。しかし、勝点3に届くには、チーム、クラブとして、ディテールまでプレーを出し切る執念が必要となる。長崎が横浜FCをその点で上回り、勝点3をまたも奪ってみせた。
その意味で0-0で終えた前半は、相手の良さを消しつつ、お互いが出したいプレーを出すという意味で、互角の展開だった。最初にペースを掴んだのは長崎で、中盤の守備に人数を掛け、特に横浜FCの寺田紳一のところを狙い所として、的確なポジショニングと間合いで横浜FCのパスワークを分断すると、ボールを奪った後は、迷いのないパス&ゴーを繰り返し、横浜FCゴール前に迫った。横浜FC・武岡優斗が「セカンドボールを不思議と全部拾われた」と振り返ったが、長崎の狙いは十分に機能していた。横浜FCも、パスワークを取り戻すべく、中盤、トップの選手のポジションを微修正すると、長崎もそれに合わせて柔軟にシステムを変更。その駆け引きは、非常に見応えのあるものだった。「前半の終わり頃から良いリズムになった」(山口素弘監督)というように横浜FCもペースを回復し、松下裕樹のあわやというフリーキックもありながら、前半はつばぜり合いのまま終了する。
後半先制したのは、ホームの横浜FC。51分に武岡のクロスに大久保哲哉がきれいに合わせる狙い通りのゴールで先制すると、その後も横浜FCのペースは掴むが、試合の分水嶺になったのは、62分の西嶋弘之の負傷退場。「選手を代えようと思っていたところのアクシデントだった」(山口監督)というように、別の交代を準備していた矢先で、アクシデントに対応するための交代選手の準備が遅れ、ようやくピッチ際に小野瀬康介を準備している目の前で、65分に長崎・金久保彩が同点ゴールを決める。結果論で言えば、その間に交代させるためにプレーを切るチャンスはあったし、「1人いなくても守り切れないといけない」(森下俊)状況であったが、この3分のエアポケットにより、試合の流れは完全に長崎に傾く。そして83分、水永翔馬が収めたボールが、途中出場の松橋章太が繋ぎ、古部健太がドリブルから振り抜いたボールがニアポストに当たってから、キーパーに当たりゴールへ吸い込まれ、長崎が逆転に成功。その後、森下も負傷退場し10人となった横浜FCを相手に、最後まで実直にボールホルダーにプレッシャーに行き、良い配球をさせなかった長崎が逃げ切りに成功し、4連勝を達成、3位に浮上した。
冒頭に書いたように、長崎は3連勝で得た自信を背景に、シンプルではあるが、自分達のできることを終了のホイッスルまで出し切った。その出し切る姿勢が後半横浜FCに生じたエアポケットを突いた逆転劇に繋がったと言って良い。4連勝、そして3位という状況に対しても、高木琢也監督が「今はいいように向いていますが、いつかは勝てない時期もくるだろう」と冷静に捉えているが、この「できることを出し切る」ということを貫くことで、チームとしてのポテンシャルを出し、結果を出し続けることができるだろう。
横浜FCは、前節の京都戦で掴んだ良い流れを、この試合の結果に反映できなかった。選手交代がスムーズにできていたら、というタラレバの話は結果論であるし、スムーズにできていて失点しなかったかどうかは誰にもわからない。しかし、差の無いJ2において、様々な場面で生じた隙をいかにチーム、そしてホームスタジアム全体で少なくするかという点で、さらなる努力が必要であるとサッカーの神様に教えられた試合だったのではないだろうか。これで、昨年の昇格プレーオフから数えて、聖地・ニッパツ三ツ沢球技場では5試合勝ちがない。4位に躍進した昨年ですら、ホームはわずかに1つ勝ち越しただけだった。相手がアウェイの戦い方をすることで、横浜FCの力を出せないゲームとなるケースが多いこともあるが、本来有利なはずのホームで力を余す感じの試合が多く見られるのも確か。中3日で迎える次の試合は、同じくホームで首位の神戸との戦い。全力でぶつかるしかない。昨年の4位も、ぎりぎりの戦いを出し切って得たものであること、そして、それは今年も変わらないことを、改めて横浜FCに関わる全ての人が心に刻む試合となったのではないだろうか。
試合そのものは、選手交代、ポジショニングの駆け引きなど、見所が多い試合だったし、お互いの意図は非常に伝わる試合だった。その上で、勝点3を左右するものは何か。勝った長崎も、敗れた横浜FCにとっても、この結果は必ず今後の糧になるだろう。
以上
2013.04.18 Reported by 松尾真一郎
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