あの場面のストップウォッチの計時は、アディショナルタイムも残り少ない93分34秒である。ペナルティエリアわずかに外、ゴールほぼ正面約16.5mの位置で得た愛媛のフリーキック。交代出場の加藤大が左足で放ったシュートは熊本の選手たちが作った壁を越え、きれいな弧を描いてゴールマウスに吸い込まれた。このときのスタジアムは水を打ったように静まり返った、かに感じられたのだが、実際には熊本サポーターのチャントは止まず、むしろ声量を増していたようでもある。だが無情にもリスタート直後に福島孝一郎主審の笛が響き、試合は劇的な幕切れとなった。
この試合に臨む前日、熊本からは負傷者リストがリリースされていた。前節も欠場した藤本主税、長崎戦で負傷した藏川洋平、さらに開幕から豊富な運動量を見せていた黒木晃平、五領淳樹の4人が長期離脱と発表され、吉田靖監督はまだコンディションが万全ではない新加入のドゥグラスと特別強化指定で登録されたばかりの坂田良太をベンチメンバーに加えた。先発には福王忠世と筑城和人が復帰し、センターバックを務めていたキャプテンの吉井孝輔を本来のボランチに配した布陣でキックオフを迎えている。
しかし緊急事態とも言えるチーム状況にあって、熊本は前節の長崎戦で不足していた運動量や玉際の強さ等、原点に立ち返った戦いぶりを見せ、序盤から愛媛を押し込んでいった。「前からのディフェンスで相手にボールを回させないことを意識して」(原田拓)、決してうまく連動した形とは言えないながらも、中盤で泥臭く身体を寄せ、ボールを奪ってからは早い切り替えで攻撃に転じた。
「監督からお互いに特徴を出していこうという話があって、バランスを見てやれていたし、今日は養父(雄仁)とか(齊藤)和樹が相手のボランチの横でボールを受けることができていた」と北嶋秀朗が振り返っているとおり、長崎戦ではできなかった「間で受ける」プレーも多く、プレッシャーを受ける中でも勇気をもって縦につけるパスの選択が見られたのは、前節から修正された点だろう。12分には左から片山奨典、27分には右の筑城と、サイドバックが前を追い越す動きでボールを引き出し、また43分には北嶋がつぶれながらファビオにつなぎ、さらに齊藤が背後へ抜け出す等、コンビネーションから決定的な場面を作った攻撃に関しては、吉田監督も「やろうとしたことはうまくいった」と手応えを得る内容だった。一方の愛媛は「相手のプレッシャーが前からきていることもあって、ボールのスピードが上がった」と河原和寿が話すように、中盤でのタメは作れなかったものの熊本の薄くなったスペースを狙った攻撃で応酬。しかしいずれも得点は奪えないまま折り返した。
後半に入っても基本的には熊本ペースで試合は進むのだが、前半から見られた精度の低さは変わらず。逆にこうした流れを変えるべく、愛媛の石丸清隆監督は64分、赤井秀一に替えて加藤をピッチへ送り出し、さらに81分に関根永悟を入れると石井謙伍をトップに動かすなど配置をアレンジ。結果としてこの交代が奏功し、果たして終了間際、冒頭の場面を迎えることになる。もっとも、熊本の守備陣も愛媛の鋭いカウンターを終盤まで耐えていた。ただ、失点につながったゴール前でのファウルを招いたように、全体的に前がかりになった状態での守備のバランスにおいて、前半から危ない場面が何度かあったことも否定できない。加藤のキックは確かに見事なものだったにせよ、あの時間帯にあの場所でフリーキックを与えざるを得なかった対応と、さらに付け加えるならジャッジに対するアジャストにも改善の余地があろう。
内容が悪いながらも終盤のセットプレーで連勝を手にした愛媛は、「こういう勝ち方は、チームもかなりハイテンションになる」と河原が言うように、次節の四国ダービーに向けて勢いをつけた。何より熊本のプレッシャーを受けながらもイージーに長いボールを前線へ入れるのではなく、しっかりとボールを動かしながら前に運ぶという姿勢がチームに浸透し、その中でも緩急をつけた攻撃を展開した点は自信になるはず。アライールや高橋泰など負傷者が戻れば、チーム力のさらなる底上げも期待できよう。
一方の熊本にとっては、前節と比べて内容が良かっただけに非常に痛い負けであることは確かで、チャンスの場面で決めきれなかったことが最後まで影を落としたゲーム。しかし、あくまで私見ということを断った上で述べさせてもらえば、あのままスコアレスの引き分け(もちろん勝てばベストなのだけれど)で終えるより、逆に得るものがあった敗戦だったのではないかと思う。サッカーは思い通りにならないし、最後まで何が起こるかほんとうに分からない。でもだからこそ1つのゴールが重く、そしてそれを求めて走り、ぶつかることに価値がある。
試合後、スタンドへ挨拶に向かった選手たちを迎えたのは前節のようなブーイングではなかった。自然にわき起こった「ロッソとともに」の大合唱で、どんな状況にあってもホームクラブを支えるのだという決意を示してくれた誇れるサポーターとともに、この連敗を糧に目の前の壁を乗り越えよう。
以上
2013.04.18 Reported by 井芹貴志
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