試合後の会見で大宮ベルデニック監督は、「やっと少しずつ、自分たちが良いプレーをしていること、自分たちに力があるということが信じられるようになってきました」と切り出した。確かに試合前の段階で、リーグでは今季ここまで無敗の4勝2分の3位に着け、昨年9月からの連続無敗記録も17試合とJ1リーグタイに並んでいたが、昨シーズンのJ1リーグ順位は13位であり、天皇杯はベスト8止まり、今年のナビスコ杯も既に2敗を喫しグループリーグ突破が厳しい状況にある。ベルデニック監督はもちろんサポーターたちも、心の底からこのダービーに「勝ちたい」と思っていたことは間違いないが、「俺たちは強いから勝てる」と信じられる人間がいたとしたら、それは楽天的に過ぎるだろう。自信には根拠が必要で、大宮は「何かを成し遂げたわけではない」(ベルデニック監督)クラブであり、その点で浦和とは大きな差がある。大宮が2005年にJ1に昇格して以来、さいたまダービーは、浦和が下位に沈んだ2011年を除けば、基本的に『上位の浦和vs下位の大宮』という構図であり、だからこそ、連続無敗新記録がかかっていること、そして両者が2位と3位で争うことでかつてない注目を浴びた。そして大宮は、ベルデニック監督に対してはもちろん、NACK5スタジアム大宮に詰めかけた両サポーター、さらにテレビ中継やニュース、ハイライト番組を見たすべてのサッカーファンに対し、自分たちの力を証明してみせた。
「非常に良い準備ができた」とベルデニック監督が語ったように、大宮は徹底的に浦和対策を練っていた。浦和は攻撃時に1トップと2シャドー、両ウイングバックが前線に張りつく。それに対して一般的な4−4−2のチームの場合、ダブルボランチが2シャドーにつき、1トップを2人のセンターバックで見て、両サイドバックが両ウイングバックをケアする。そして浦和の3バック+ダブルボランチによるビルドアップに対して2トップと両サイドハーフの4枚が対峙すると、どうしてもつかまえきれず、中盤に生じた広大なスペースで鈴木啓太に自由に泳がれ、前線に良いボールを供給されてしまう。
そこで大宮が出した答は、ボランチが1枚最終ラインに落ちて5バックを形成してマンマークで付き、もう1枚のボランチが鈴木啓太を捕まえ、槙野智章と森脇良太の上がりは両サイドハーフが抑え、那須大亮と阿部勇樹を2トップが見る。いわば5−3−2の形でオールコートのマンツーマン。しかもコンパクトに最終ラインを高く保ち、前線から激しくプレスをかけ、ロングボールも正確には蹴らせなかった。青木拓矢が「(ロングボールを)蹴らせるぶんには勝てると思っていた」という通り、激しいプレスでGKまでボールを下げさせ、苦し紛れのロングキックに競り勝ち、セカンドボールを回収する。浦和はこの守備に苦しみ続けた。ある程度最終ラインでボールを持てても、前に出しどころがなかった。前半、大宮は浦和のシュートをわずか2本に抑え込む。
ただ攻撃の面では、大宮も前半はシュート3本。立ち上がりに押し込んで分厚い波状攻撃を加えた以外は、浦和にそれほど脅威を与えてはいない。それでも前半終了間際、浦和の那須が頭部を切って治療のため一人少なくなった時間帯に、今井智基が上げたクロスをファーサイドで拾った富山貴光が、左に流れてきていた渡邉大剛に戻す。このとき、那須の不在に加えて大きく左右に振られたことで、浦和の守備ラインは完全に混乱しており、渡邉をマルシオ リシャルデスが後ろから追いかけている状況。外に上がってきた下平匠にボールを預けた渡邉が、目の前に空いていたスペースに鋭くダッシュすると、下平から正確な浮き球が送られ、渡邉の速いクロスに中央でズラタンが合わせる。大宮先制――。目の前の出来事に沈黙するアウェイゴール裏をよそに、オレンジに染まったスタンドが地鳴りのような歓喜に沸いた。
「負けているのでリスクを負って攻撃をしかけ、ほぼ相手コートに押し込んだが……」とペトロヴィッチ監督が振り返った通り、後半は浦和が猛攻を仕掛けた。槙野と森脇が高い位置取りで攻撃に参加し、阿部も前に出てきたことで、「マークがつかまえずらくなった」(青木)。大宮は前からプレスがかからず、コンパクトさを保てなくなった。戻りながらディフェンスする場面も頻発し、60分過ぎにはペナルティエリアにまで守備ラインを下げられた。最後の局面で体を張ってブロックしてはいたが、この苦しい時間帯に耐えきれず失点していれば、そのまま逆転されることも十分にあり得ただろう。
しかし浦和は最後まで大宮ゴールを割れなかった。連発するクロスはことごとく菊地光将と片岡洋介にはね返され、右ウイングバックの梅崎司、代わった関口訓充のドリブルも下平に止められた。「引いた相手に対してショート(パス)、ショート(パス)ばかりではダメ」と興梠慎三が唇を噛んだが、攻撃のテンポを変えられず、中央を固める大宮をどうしても崩せない。本来であれば、そこでアクセントを加えるべき原口元気は前半に負傷交代してしまっている。後半だけで6回を数えたオフサイドも、大宮の守備を楽にした。75分過ぎには大宮は再び5−3−2のコンパクトな形を取り戻し、槙野と森脇を抑えるべく両サイドハーフに渡部大輔、村上和弘を投入すると、もはや浦和に攻め手はなかった。アディショナルタイムは4分。目の前のゴールをこじ開けろ!とアウェイゴール裏の大音量が響く中、そのまま逃げ切れ!とホームゴール裏が歌う「無敵大宮」にメインスタンドもバックスタンドも手拍子で合わせる。最高のダービーの雰囲気をもっと味わいたい気持ちはあったが、一方で、一秒でも早く勝利を確定したくもあった。その瞬間、抱き合う青木と金澤慎、アドレナリン全開ではしゃぎ回る北野貴之、だれもがそれぞれの表現で喜びを爆発させた。
シュート数は大宮7、浦和8と互角だが、コーナーキック数を見ると1対7で、浦和がいかに大宮を押し込んでいたかを物語る。浦和は強かった。自分たちのサッカーをより表現したのは浦和だった。大宮は、浦和対策を徹底して勝利したが、浦和は浦和らしいサッカーを貫いて敗れた。しかし大宮も「チームとしてコンセプトがはっきりしているから、だれが出ても同じことができる。それが僕たちの強みだと思う」と下平が胸を張ったように、チョ ヨンチョル、高橋祥平という攻守のキーマンを欠きながら、それぞれがハードワークして役割を遂行した。終盤、村上が投入されると、村上が最終ラインに下りてボランチが前に出る形で5バックを継続したが、これは「練習でやっていた形ではなかった」(今井)という。選手間の意思統一で臨機応変に対応し、猛攻を凌ぎきった。これができるのは、強いチームである証だろう。
大宮はリーグ戦で18試合連続無敗となり、J1リーグ新記録を達成した。ベルデニック監督も選手も記録はそれほど意識していなかったというが、記録を達成した今、大宮は記録保持者になったことをしっかり意識するべきだ。この記録を伸ばし続けることはもちろん、記録を守ることに最大の努力を払ってほしい。すなわち今後の対戦相手に勝ち続けること、それが自分たちの記録を不滅のものにする。「この記録が、(前記録保持者の)鹿島のように大きなクラブになる一つのきっかけになるのではないか」というベルデニック監督の感慨を、現実にするために。
今節の結果で大宮と浦和の順位は入れ替わり、横浜FMが敗れたことで次節は大宮も浦和も首位に立てる可能性が出てきた。願わくば秋に行われる第28節アウェイでのダービーも、互いにこれ以上の順位で戦いたい。4月というのに冷たい雨の中、ロースコアなゲームではあったが、全国的な注目を浴びた最高の舞台で選手たちと両サポーターが放った熱量は、試合前に金澤が語った「本物のダービー」にふさわしいものだった。浦和は強かった。そして大宮も強かった。歴史に残る、最高のダービーだった。
以上
2013.04.21 Reported by 芥川和久
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