後半のアディショナルタイムも2分に入ろうとしていた。相手ゴール正面、ペナルティエリアのわずかに外で獲得したFKを蹴るにあたり、キッカーの梁勇基にはいろいろな思いが去来していたという。
「時間もなかったですし、これで決まらなかったらそのまま負けるかもしれないという段階だったので、本当に(ボールを)セットした時点でいろいろ考えました」と彼は試合後に振り返った。
この場面が仙台vs江蘇の一戦に込められた、人々の思いを象徴していた。梁に限らず、実にいろいろな思いが交差した90分だった。
仙台にとって初出場のACLで、グループステージ突破は最終節の結果に委ねられた。突破の条件には同時刻に開催されるソウルvsブリーラムの結果も絡んでいたのだが、まずは仙台に求められていたのはブリーラムよりも良い結果を出すこと。そしてホームでこの最終節を迎えていた以上、目の前の相手に勝利することが望ましかった。
しかし対戦相手の江蘇もまた、仙台に勝つことでグループステージ突破の可能性を高めることができる状況にあった。そのために江蘇はアウェイの地ながら、立ち上がりから攻め立てる。体格を生かした空中戦だけでなく、陸博飛のパス技術やハムディ サリヒの速さを生かした地上戦でも仙台陣内に迫った。
仙台は角田誠が出場停止、石川直樹など負傷者がおり、他のメンバーもJ1リーグ戦とACLとの連戦で心身ともに苦しい状況ではあった。しかしジオゴや蜂須賀孝治といったチャンスを得た選手がゴール近くでは相手に前をなかなか向かせず、耐えてチャンスを待った。その結果、24分に左サイドから蜂須賀が上げたクロスに菅井直樹が合わせて、仙台が待望の先制点を手に入れた。
しかし38分、クリアミスを劉建業(リュウ ジェンイエ)によって遠目から見事に蹴りこまれて、試合は振り出しに。仙台は前半を1-1で終える。この時点でソウル会場の経過は0-0で、このままであれば仙台が諸々の条件からグループリーグを勝ち抜けることができる。しかし試合結果は90分トータルである。残り45分に何が起こるかわからない以上、少しでも条件を有利にしたい。仙台は後半にバランスを攻撃寄りに修正、高めの位置に布陣を敷き攻勢に出た。
しかし攻めに出た背後を、江蘇に突かれてしまった。62分、仙台右サイドにできた隙を、この日はサイドに回っていたアレクサンダル イェブティッチのパスで突かれ、最後は抜け出したサリヒに決められた。
この間にソウル会場では激しい点の取り合いが展開されていたが、もはやそんなことはどうでもいい。仙台はとにかく追いついて勝点を取るしかなかった。ウイルソン、武藤雄樹、中原貴之とタイプの異なるアタッカーが次々ピッチに送りこまれ、最後には前節・ブリーラム戦で見せた渡辺広大のパワープレーも加わった。それでも江蘇はシュート数を犠牲にしてでも守備に人数をかけて守る。87分にはウイルソンが退場し、仙台はますます苦しくなった。
しかし大攻勢の末に、90+2分に仙台は相手ゴール前でFKを獲得、得点機会を阻止した相手DFは退場する。これが冒頭で挙げた場面だ。様々なコースを考えていた梁のキックは、壁に跳ね返されてしまった。試合はこのまま1-2で終了。ソウル会場が2-2で終わったことにより、仙台と江蘇、両チームのグループステージ敗退が決まった。
得点した菅井は、試合が終わった瞬間は何も考えられなかったという。渡辺は「悔しさしかありません」と率直な思いを口にした。結果的にグループEの最下位に終わったことで、仙台にとって初挑戦のACLは苦い結果に終わった。
さまざまな思いから、最後に残ったものは「悔しさ」だった。だが「もう一回ACLの舞台に出て戦いたいという気持ちもありますし、自分達はまだまだだと感じさせられた」と梁が振り返ったように、悔しさを晴らすチャンスはまたACLに出ることでしかつかめない。
だからこそ、これからのJリーグで、これまで以上に力を発揮する———それが、仙台がこれから果たすべき使命だ。
以上
2013.05.02 Reported by 板垣晴朗













