後半17試合の開幕戦が、いきなりの首位決戦。勝利=優勝ではないが、勝点で並んでいる両チームの決戦を前に、サポーターの胸はきつく締め付けられる。期待なのか、不安なのか。その正体は、誰にもわからない。
しかも広島対大宮といえば、誰もが5月6日のNACK5スタジアム大宮を思い出す。ペナルティエリアの中に浮いたボールに対して猛然と突っ込んだ二人の若者=増田卓也(広島)と富山貴光(大宮)が空中で激突し、共に昏倒して病院に運ばれた。あの時、ピッチに入った救急車で運ばれる増田に対し、大宮サポーターから巻き起こった「大増田コール」。そのコールに感謝した広島の選手が大宮サポーターに頭を下げ、大宮の選手たちも広島サポーターの下に向かい、拍手を浴びる。その全てが「Jリーグの誇り」だった。
サッカーに必要なのは憎しみや怒りではなく、友情である。対戦相手がいなければ、試合すら成り立たないのだが、多くの場合においてこの「前提」が見過ごされている。だからこそ、フェアプレー精神がギュッと凝縮された濃密なあの時間を共有できた尊敬すべき好敵手と首位を争う幸福感を、どんな言葉で表現すればいいのだろう。
もちろん、「尊敬すべき相手」だからこそ、今度は勝利したい。
5月6日の試合はフェアプレー精神だけでなく試合内容も素晴らしかったが、広島にとって画竜点睛を欠いたのが、敗戦という結果。その後、広島は8試合で7勝1分と快進撃を続け、首位・大宮との勝点差12を追いつき、得失点差で首位に立った。その勢いが本物であることを証明するためにも、大宮に勝利したい。「同じ相手に続けて負けない」。それは、勝負の鉄則である。
今回の決戦で気になるのは、両チームの戦力だろう。大宮は、負傷離脱している選手たちの動向が気になる。ズラタンは川崎Fとの練習試合出場を回避したものの、どうやら復帰濃厚。だが、ノヴァコビッチと下平匠の回復具合は、果たしてどうか。広島戦に間に合うのか。森保一監督は「彼らが出てくると思って準備する」と警戒してはいるが。
さらに出場停止となる青木拓矢の代役も重要事項。「広島のエンジン」が青山敏弘であるならば、青木は「大宮の発電機」のような存在。彼ほどエネルギーに満ちたボランチの代わりが務まる選手など、J全体を俯瞰しても探すのに苦労する。上田康太やカルリーニョスといった優れたタレントはいるが、タイプは違う。つまり青木のプレーを期待するのではなく、彼ら自身のパフォーマンスを大宮という優秀な組織の中で、生かさねばならない。もちろん、名将・ベルデニックのことだ。戦略にぬかりはないだろうが、21試合連続不敗の全試合に出場していた名ボランチ不在の影響は、決して少なくない。
一方の広島は、代表選手の疲労が心配だ。特に日韓戦で先発した西川周作・青山敏弘・高萩洋次郎の状態の見極めは、森保監督にとって重大事だ。
もろちん、3選手とも大宮戦への出場意欲は十分。高萩は「僕らにとっては韓国よりも仙台や山形への遠征距離の方が、よほど長い。普通のJリーグにおける連戦と同じ」と疲労を心配する声を一蹴。西川は「全ての試合の出るつもり。大宮戦には特に、燃えるものがある」と言い切り、青山は「首位攻防戦に出るつもりで、広島に帰ってきた」と瞳を輝かせた。
強い意欲は、一時的に肉体の疲労を忘れさせる。しかし、身体の全てを気持ちでカバーすることはできない。国際大会、特に日韓戦は、選手たちの肉体にいつも以上の重い負担を強いているはず。勝利したことが疲労を軽減してはいるが、その状態をどう判断するか。
広島も大宮も、抱えている事情は同じ。主力不在、あるいは体調に不安を抱えている状況をカバーする「チーム力」が問われている。そういう意味では明日の試合は、優勝争いを演じる資格を持っているチームかどうか、その試験のようなもの。明快な回答を示せるのは広島か、それとも大宮なのか。
最後に、一人の選手を紹介しておく。昨年まで2年間は鳥栖でプレーし、躍進の原動力となった岡本知剛だ。広島の育成組織で育ち、鳥栖での成長を自信に変換して戻ってきた若きボランチは今季、リーグ戦でわずか2試合の出場にとどまっているが、それでも彼の実力に対する評価は高い。「(岡本)トモはずっと、いい練習を続けている」と森崎和幸は証言。佐藤寿人も「トモには(青山)トシとは違った良さがある」と指摘している。決して腐ることなく、懸命に練習を続けている岡本は、大宮戦に向けてこんな言葉を発した。
「たとえ出場時間が3分でもいい。チームに貢献するために、準備を続けたい」
震えが来るような若者の情熱を乗せながら、エディオンスタジアム広島は今、静かに決戦の時を待つ。
以上
2013.07.30 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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