ハーフタイムの横浜FC・山口素弘監督のコメントには「我慢比べ」という言葉が書かれていた。一般論であるが、サッカーの勝敗はボールの扱いの上手さだけで勝敗が決まるわけではなく、試合の流れへの対応も重要である。この試合は、まさにこの我慢比べへの対応力が結果に反映されることとなった。
前半は、冒頭に書いたようにまさに我慢比べの展開。横浜FC、北九州ともにシュートが2本という記録がその展開を如実に物語っている。プレビューでは、強固な3ラインの守備ブロックを築いた北九州に対して、得意とするポゼッションでゴール前に迫る横浜FCを予想していた。基本の構図はそれに近いものではあったが、実際はそれよりも慎重な展開となった。両チームともにブロックを構築し、ボランチからサイドに展開した後にサイドで隙の探り合いをする。横浜FCは三浦知良がブロックによる守備の攻略の定石である「間で受ける動き」を繰り返せば、北九州は初先発の井上翔太が同じように攻撃でアクセントをつける。しかし、両チームとも崩れない。表面上は静かな前半だった。
後半が開始され、先に攻撃に比重を移したのは横浜FCのほうだった。クサビのパスを前に付ける意識を増やし押し込みに掛かる一方で、逆に北九州のカウンターの芽ができはじめる。前半の重苦しい均衡が変化していく中、勝負所と見た横浜FCは、58分に三浦に代えて野崎陽介を投入。横浜FCは「ポイントになったり、仕掛けたりというところをやってくれと」(山口監督)という指示を与えて送り出す。しかし、先制ゴールを奪ったのは北九州のほうだった。62分、クリアボールを収めたキムドンフィから八角剛史がフリーで受けると、同じくフリーで池元友樹、さらに抜け出したキムと渡り、最後はクロスに飛び込んだ森村昂太が飛び込む見事な連携でゴールゲットする。横浜FCは人数的には数的優位を保っていたが、局面のリスクマネジメントという点で緩さを見せた所を北九州は見逃さなかった。そして、北九州はたたみ込むように69分に森村のフリーキックからキムがニアで合わせて追加点を得る。攻撃に比重を移した横浜FCに対して、北九州が攻守のバランスを変えずに隙を見事に突いた形となった。
2点を追うべく、さらに横浜FCは攻撃的になるが、77分にその勢いに水を差すプレーが起きる。ファールでプレーが途切れているところで森下俊がボールを相手選手に当てて、乱暴な行為で退場に。10人になってからの横浜FCは、ようやく80分に野崎の突破から、ナ ソンスが粘り、最後は中里崇宏が決めて1点を返す。その後もプッシュするが、北九州の守備ををそれ以上は崩せず。ゲームは安定したプレーを続けた北九州が7試合ぶりの勝利を挙げる形となった。
横浜FCにとっては、昇格プレーオフ圏内を考えた場合、数字上はほぼ赤信号に近い状況となった。中里崇宏は「今日は狙いを持って(守備に)行けていた感じではなかった」と振り返ったが、山口監督が目指すタフなチームになるために、もう一度足下を固める必要があるだろう。今季初の退場者を出してしまったことが象徴するように、結果が出ないことの焦りもうかがえる。目標であった昇格に対しては非常に苦しい状況であるが、一方で奇跡の昇格を狙うのであれば築いてきたサッカーを自信を持って出すことが大事になる。山口監督が試合後に述べた通り、まだへこたれる状況ではない。
勝利した北九州は、柱谷幸一監督が「八角と新井の所で中盤の構成力でうちの方が上回っていた。ほぼ全ての時間でゲームをコントロールした」と述べたように、中盤の安定とバランスを最後まで保ったことが最大の勝因だった。そして課題であった試合の締めくくり方についても、失点はしたものの、4-4-2のフォーメーションを変えずに逃げ切れたことは収穫と言える。やるべき事をしっかり完遂した勝利は今後の自信となるだろう。
真夏のゲームは体力を考え、我慢比べとなる試合が多い。今後もこういった試合は続くだろう。これからのリーグ後半は、試合の流れをうまく味方に付けられる、そういう冷静さとタフさが最後の順位を左右するだろう。その象徴的なゲームだった。
以上
2013.08.05 Reported by 松尾真一郎













