リーグ戦とは、人生である。
ずっと勝ち続けることは、まず不可能だ。1991-92シーズンのACミラン(イタリア)や2003-04のアーセナル(イングランド)のように、無敗優勝を果たしたチームはあるが、それは100年の歴史の中で1〜2チームあるかどうか。あのバルセロナ(スペイン)ですら、無敗優勝はない。ましてJリーグでは、わずか15試合の短期決戦だった2ステージ制の時ですら、無敗チームは存在していない。
シーズンを戦う中で、ほぼ全てのチームは、必ず負ける。重要なのは、敗戦をどう受け止め、次にどう向かっていくか。人生についても、挫折を経験せずに一生を終えることなど、まず不可能だ。「僕が僕であるために、勝ち続けなければならない」と歌った尾崎豊も、その詞を書いた10代の時ですら、何度も膝を屈する想いを経験している。リーグ戦も人生も、勝ち続けることなどはできない。大切なのは、挫折や敗戦の受け止め方だ。昨年の広島は、一度も連敗がない。敗戦を受け止め、それを次の試合に活かすことができたから、優勝にたどり着いた。
前節・浦和戦の敗因は、明確だ。重要な局面、ミスが許されないシーンで、自ら崩れてしまったことにある。やってはならない場面でミスを繰り返せば、失点も当然。今季2度目の3失点は、自滅したチームに対する必然の報いだった。もしこの敗戦によって、広島がここまで積み上げてきたものが霧散するようなことがあれば、それはさらに大きな敗北へとつながる。選手たちは口々に「敗戦を受けても、いつもどおり」と言葉を発しているが、その言葉の正しさを証明できるのは結果だけ。次に勝利した時にこそ、「敗北から学べた」と胸を張って言えるのである。
対戦相手の磐田には、前回の対戦時に大苦戦を喫した。ミスとカウンターから2得点をあげて勝利したものの、内容は全く逆。磐田のアグレッシブな攻撃の前に、何度も何度も決定的なシーンを演出された。西川周作(広島GK)のファインセーブがなければ、おそらく広島の守備は瓦解し、敗戦の屈辱を受けていたはず。「勝ちに不思議の勝ちあり」はプロ野球の名選手にして名監督である野村克也氏の言葉だが、この磐田戦はその言葉に近い実感を受けた。
当然、広島の選手たちは磐田の17位という順位が「相応」とは思っていない。「強いチームだとはわかっている」とは高萩洋次郎の言葉。森崎和幸も「質の高い選手たちが揃っているし、どうして磐田がこの順位にいるのかと、疑問に思う」。来週のキリンチャレンジカップ2013 ウルグアイ戦における日本代表に選出された青山敏弘も、「タレントはそろっているし、噛み合えば怖い」と表情を引き締めた。駒野友一、ペク ソンドン、山田大記、松浦拓弥。ドリブルもクロスもある選手たちが織りなすサイドアタックは屈指で、クロスの供給本数ではリーグ上位をキープしている。
しかも、中央で待っているのは前田遼一だ。今季はまだ4得点と結果を出せていないが、その能力の高さはここで説明するまでもない。結果が出ていないからこそ、「ここで爆発するのでは」という感覚もあるし、なにせ彼は広島キラー。2009年の広島J1復帰以降、対広島戦10試合9得点(カップ戦含む)。同期生である森崎和は「質の高さは間違いない」と語り、西川も「コマ(駒野)さんと(前田)遼一さんのホットラインは要警戒です」。何度も煮え湯を呑まされてきたサックスブルーの大砲に対して、最大限の敬意と警戒を払う必要を認めた。
攻防のポイントであるサイドの現状について、考えてみよう。広島は負傷離脱した左サイドの山岸智に代わって入るのは、清水航平かパク ヒョンジンか。清水であればドリブルからのシュート、パクは左足のクロスとプレースキックが武器となるが、共に守備的な選手ではない。一方、磐田のペク ソンドンと駒野も攻撃力がセールスポイント。個人としての経験値ではもちろん磐田に軍配があがるが、ただ、サッカーはチームとしての関係性が勝負のベース。駒野をオーバーラップさせるためのカバーリングやボール保持率、清水やパクの若さを発揮させるためのサポートも含めた上で、広島の左vs磐田の右、このサイドの勝負に注目したい。
一方、逆サイドも熱い。「大学の頃の山田はスーパースターだった。でも今は、少し差を縮められたと思う」と語る塩谷司は、かつて関東大学リーグでしのぎを削った同年代アタッカー=山田大記との対決に闘志を燃やす。いずれにしても明日は、サイドで主導権争いが熾烈を極めるはずだ。
明日、エディオンスタジアム広島には、2万人以上のサポーターが集結すると予測されている。広島と磐田、両チームのポテンシャルから考えても、大観衆の拍手と熱狂が渦巻く中で濃密な90分間が展開されるはず。その90分間が終わった後、サポーターの心に何が残るのか。人生の摂理か不条理か。勇気か情熱か。いずれにしても、自らの全てをピッチにぶつけあう戦いから発散されるエネルギーは、見ている側に何かを与えずにはいられない。
以上
2013.08.09 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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