神戸10、徳島27。シュート本数だけを比較しても分かるように、ゲーム内容では徳島が主導権を握っていた。徳島の小林伸二監督が「ボールを回したり、我々が意図的にやったことは充分にできた」と振り返れば、神戸の安達亮監督は「内容としては３点取った後も、非常に危ないというか、攻め込まれる場面もあった」と劣勢を認めている。だが、神戸は前節の長崎戦と同じく、絶対に勝てるという自信を持って戦い抜いた結果、０−２から見事な逆転劇を演じてみせた。

今節を前に神戸の小川慶治朗がチームについて話していた言葉を思い出す。「内容が悪くても勝てる雰囲気が今の神戸にはある」。再三にわたって徳島のシュートを阻止したGK徳重健太は試合後に「先に２点を取られてすごく悪い時間だったけれど、その状況をどう変えていくのかを一人一人が考えていたと思う。その雰囲気の中で逆転できたのは良かった」とチームメイトを讃えた。神戸は一丸になっている、神戸の強さは本物だ。

ゲームを振り返ると、前半の立ち上がりから徳島が優勢だった。ボランチの柴崎晃誠がボールを奪って左右にパスを散らせば、サイドハーフの宮崎光平と大崎淳矢が両端に起点を作り、もう一人のボランチ濱田武とパス交換をしながら両サイドバックの藤原広太朗とアレックスがオーバーラップで攻撃に参加する。あるいは、２トップのドウグラスと津田知宏が前線でタメを作ったり、相手DFの裏へ抜け出したり。ワンタッチパスで小気味のいいリズムを作った徳島を、神戸は捕まえることすらままならなかった。
前半12分の徳島の１点目は、そんなテンポのいいパスワークから生まれた。左サイドでボールをキープしたアレックスが濱田に一度ボールを預けると、神戸DFの意表を付くように中央へカットイン気味にフリーランを見せる。その動きに合わせて濱田が再びアレックスへボールを戻すと、そのままアレックスがペナルティエリア内へ。冷静に逆サイドの宮崎へヨコパスを送り、最後は宮崎がGKの動きを見て確実にゴールへとつなげた。絵に描いたような美しい崩しからの先制点に、神戸はなす術が無かった。26分にはCKからドウグラスが神戸・奥井諒との競り合いの中でPKを獲得し、自らPKを沈めて０−２に。徳島の強さが際立った前半の立ち上がりだった。

だが、２点目を奪った直後の29分。神戸のポポに右サイドから豪快なミドルシュートを決められてしまう。ほとんど神戸に崩されていなかっただけに、CBの青山隼は「CKからの二次攻撃で、ドウグラスが倒れてボールを出すのか出さないのかのところで、ちょっと一瞬止まった。まさか（ポポも）あそこから打ってくるとはみんな思わなかった（中略）０−２で折り返したかった」と、このゴールを悔やんだ。
後半の最初の10分は神戸が主導権を握った。49分には相馬崇人が徳島のお株を奪うようなサイド攻撃で崩すと、最後は小川がニアサイドに走り込んで鮮やかな同点ゴールを決めた。54分にはマジーニョがFKからゴール（公式記録はオウンゴール）を決め、あっという間に神戸が逆転に成功した。

その後、徳島は74分に那須川将大を投入し、神戸が“伝家の宝刀”５バックにシステムに変えた後は、83分にFW高崎寛之、89分に千代反田充をピッチに送り込んで同点弾を狙いに続けた。だが、神戸のGK徳重やCBの北本久仁衛＆河本裕之、途中出場の岩波拓也らの身体を張った守備をこじ開けられないまま、終了のホイッスルを聞く事になった。
結局、徳島の敗因は何だったのだろうか。小林監督は「２点を取った後に、あまりにもいい形でスムーズに行っていたから、ちょっとした油断が生まれた。１失点目は本当にもったいない。（中略）メンタルのところをもう一度締め直していく必要がある」と述べた。青山は「隙ですね。上位のチームは隙を見逃してくれない。神戸はJ1に近いチームですし、経験のあるチームはこういうところをものにしてくるのかと感じました」と話した。
逆に神戸の安達監督は勝因をこう話す。「僕自身もそうですが、我々は来年何としてもJ1でプレーしたい、J1でプレーするには、それこそ去年まで神戸いた（大久保）嘉人も調子いいですけれど、彼らと対戦しなければいけない。そういう覚悟と準備をしていかなければいけない。（中略）そういう考えもあり、長崎戦でもそうでしたが、劣勢であったとしても我々はそこで負けてはいけないという強い気持ちを選手たちから感じます」。いわゆる勝者のメンタリティのようなものがチームに浸透してきたのかも知れない。今節の逆転勝利には、そんな力強さが感じられた。

以上

2013.09.23 Reported by 白井邦彦