互いの手探りが始まったばかりの２分、右サイドに深く下りたFW中島裕希から対角線に長いボールが送られた。スペースに走り込むのはボランチの秋葉勝。ボールサイドに寄っていたパク ゴンは踵を返しコーナー方向をめざして戻ったが、足がもつれて前方へ転倒すると、飛び上がってトラップした秋葉の着地の足を払うような格好で秋葉を倒してしまう。故意ではなかったがボックス内のこのプレーがファウルと判定され、４分のPKを中島が決めて山形がいきなり先制に成功した。

大量失点が続く３連敗中の福岡は左サイドのオ チャンヒョンのポジション取りで３バックにも４バックにも見える布陣だが、両サイドバックを高く上げていたこれまでよりはリスク管理の狙いがうかがえた。マリヤン プシュニク監督は「今日は山崎選手や伊東選手というサイドの危険な選手を抑えるために、我々はプレーをしました」とその意図を語ったが、「悪い形で失点しちゃって、そこからプランが崩れた」(金久保順)といきなりのビハインドに立たされた。

しかし、山崎雅人が「前半５分ぐらいでずっと押されてた」と振り返る福岡の時間帯がここから続く。たとえば、萬代宏樹がくさびを落とすシーン。萬代が２タッチで落とし、受け手も２タッチ以上すると、福岡の選手２〜３人がたちまち囲んだ。伊東俊や中村太亮のドリブルに対しても序盤こそ警戒してズルズルラインを下げていたが、すぐに修正されて厳しい寄せが見られるようになった。奪ったあとは両サイドのスペースを城後寿や石津大介がシンプルに突き、コーナー付近に押し込んでからクロスといったシーンも生まれていた。山形はむしろ２タッチ程度でパスアンドゴーを使うほうがアウトサイドから守備の裏を取りやすかった。21分、伊東を起点に中村太が追い越し、早いタイミングでディフェンスラインの裏へ送った中島へのクロスはオフサイドの判定だったが、その直後の22分、またも中盤に下りてボールを受けた中島から、高く上がったラインの裏へフィードが送られる。ジャスト・オンサイドで飛び出した萬代はGK神山竜一と１対１。間合いを詰めた神山の股間を狙ったシュートは右足で弾かれたが、萬代の背後からサポートしていた山崎が無人のゴールに冷静に流し込んだ。22分、山形が２−０とリード。

序盤の複数失点で、福岡はこれまでの流れを継続してしまったかに思えたが、勢いづく山形にその後何度か裏を突かれながらも凌いでいた36分、反撃の狼煙を上げる。すでに両サイドは高く押し上げられていたが、バックラインで右から左へ渡されたボールは、オ チャンヒョンのサポートに入った金久保に付けられ、そこから右前方へ大きく展開。前を向いてボールを追う城後と裏を突かれて戻る中村太は、いったんは対峙する形になったが、互いにボールをはさんだ瞬間に入れ替わり、次の矢・イ ジュヨンを石津が待つマイナス方向への目のフェイントでかわすと、ニアポスト際に飛び込んできた本命・金森健志の足元へパスを送る。角度もなく、コースもほぼ切られていたが、速いパスをワンタッチで狭いコースに合わせてゴールネットを揺らした。

「サイドから仕掛けろ」「もっとアグレッシブに」。マリヤン　プシュニク監督のハーフタイムの指示を、１点差に詰めた福岡は忠実に遂行する。特に右サイドの城後にはボールが集まり、クロスが何度も放たれた。52分には、坂田大輔のポストプレーから城後がシュート性のクロス、GK常澤聡が弾いたこぼれに金森が詰めている。プシュニク監督はここで最初のカードを切る。59分、前半でイエローカードを提示された古賀正紘に代わり、昨年まで山形でプレーした船山祐二を中盤に投入。城後をサイドバックに下げた。両サイドから押し込む福岡に対し、山形はサイドハーフが自陣深い位置で懸命に守備をするシーンが続いていた。福岡は72分には岡田隆から西田剛へ、81分には石津から牛之濱拓へスイッチ。前線には次々にフレッシュな攻撃陣が送られ、スタートから出場している金森もピッチのあらゆる局面に顔を出してはバトルを演じていた。

前半の失点以降、裏を狙う動き出しが沈静化していた山形は、試合終盤にさしかかると前線で起点がつくれず、カウンターの枚数も不十分。ファウルをもらいセットプレーからのチャンスに頼らざるを得ない状況が続いていたが、守備ではいつもの試合以上の集中力が感じられた。特に目立ったのはクロスやコーナーキック、ロングスローなど横からのボールに対する対応。あるときはストーンの萬代が跳ね返し、それを越えてもGK常澤や西河翔吾、イ ジュヨンのセンターバックがクリアした。ラストプレーとなったアディショナルタイムのコーナーキックでは、ニアに飛び込んだ坂田にヘディングシュートを打たれたが、バーに跳ね返されたところでタイムアップ。山形は負けなしが９試合に、福岡は連敗が４に伸びた一戦は、まさに紙一重で明暗が分かれた。

「後半は主導権がある程度取れて、２点目がほしかった」と金久保が言えば、石津も「2-2に追いついた状態になればまだわからなかったので、決めきるという力がまだまだ必要なのかなと思います」と振り返った。福岡はあと一歩まで追い詰めながら勝点を奪えなかっただけに悔しさは大きいが、ズルズルと失点を重ねていた状態からのキックバックの一戦、そう位置づけられる手ごたえも同時にあるはずだ。次のホーム・富山戦、逆戻りは許されない。

プレーオフ進出を狙うには勝利を重ねるしかない山形は、関門を一つクリアした。ただし、シュート数は７本といつもの半分程度。奥野僚右監督も「理想的な話をすれば、もう１点取れればまた違った展開になったかもわかりません」と自らの手で試合を決められなかった心境を吐露した。その一方で、この時期に耐えてつかんだ勝利にも大きな意義がある。「チームとしてあそこで守りきれた、我慢する時間帯が長かったんですけど、我慢できたのがよかったと思います。そういう時間帯もあると思って、みんなで声かけて我慢しようと言ってたし、それが長かったですけど、それで後半はゼロに抑えられてよかったと思います」(山崎)。７月末から負けなしのまま、次節、９月最後の試合となるホーム・北九州戦を迎える。

以上

2013.09.23 Reported by 佐藤円