同じ勝点1でも、試合後の両者の表情は対照的であった。

試合終了とともにガッツポーズを見せたのは熊本の選手たちであった。「大変厳しいゲームだった」と池谷友良監督が振り返るように、終始ゲームを水戸に支配され、防戦一方の展開を強いられた。それでも粘り強く戦って、水戸の攻撃を１失点に抑えることができた。劣勢ながらもドローに持ち込んだだけに「勝点１は悪くない結果」と池谷監督は納得の表情を見せた。残留争い真っただ中で戦う熊本にとって、この勝点１の価値は決して小さくないはずだ。

一方、敗者の表情を見せていたのが水戸の選手たちであった。前節Ｇ大阪相手に0対5の大敗、今季3連敗を喫してチームは自信を失いかけていた。だからこそ、「この試合は今季最も大事なゲームになる」（細川淳矢）という意気込みで臨んだ。その意識が序盤からプレーとなって表れた。「かなり水戸のプレッシャーがあった」と熊本の池谷監督が振り返るように、水戸のアグレッシブな姿勢が熊本を圧倒。序盤から流れをつかみ、熊本陣内に攻め込んだ。

また、けが人が続出したために、「現状で最も力を発揮できる形に変える」（柱谷哲二監督）ということで、3−5−2システムではなく、第18節以来となる4バックに切り替えて臨むこととなった。「立ち上がりのところでどうなるかな」（柱谷監督）という不安はあったものの、元々慣れ親しんだシステムだけに選手たちは違和感なくプレー。高いDFラインを保ち、厳しいプレッシャーを敢行し、流れを引き寄せた。不安は杞憂に終わった。

27分に橋本晃司のPKで先制し、さらに勢いに乗りたいところだったが、42分に熊本のCKが水戸の選手の体に当たってゴールに吸い込まれる不運な失点を喫してしまう。さらに、風上の前半から風下の後半へ。流れは変わるかと思われた。しかし、風下になっても水戸の勢いは変わらなかった。

「風下でこれだけ相手を圧倒することはなかなかできない」と柱谷監督が振り返ったように、水戸は前半以上の積極的な姿勢を見せたのであった。鈴木隆行が前線で起点となり、橋本晃司と船谷圭祐がうまく絡んで厚みのある攻撃を繰り出した。しかし、チャンスは作りながらもゴールを奪うことができなかった。その原因はゴールに向かう意識の欠如にあった。セットプレーから決定機を築いたものの、流れの中からはほとんどチャンスらしいチャンスを作れず。後半は圧倒的に水戸が攻め込む展開となりながらも、放ったシュートはわずか3本に終わった。

71分のシーンがこの日の水戸を象徴していた。左サイドに持ち込んだ鈴木隆が強引なドリブル突破から中央に折り返し。ペナルティエリア付近に走り込んだ内田航平がボールを受けた。前にはスペースがあるものの、内田はゴールに向かわず、周囲を見渡してしまう。そして、シュートも十分可能な場面であったにも関わらず、ゴール前にクロスを上げて跳ね返されることに。このシーンをはじめ、絶好のチャンスを自ら潰してしまうシーンが何度か見られた。これではJ2残留に闘志を燃やす熊本の守備を破るわけがなかった。

確かに前節Ｇ大阪戦の大敗ショックから抜け出そうと選手たちは強い気持ちを見せた。そして、「内容的には問題なかった」と柱谷監督の言葉通り、チームとしてのスタンスを取り戻すことはできた。しかし、最も重要な勝利をもぎ取る気迫を欠いてしまったことが悔やまれる。勝つことは簡単なことではない。「相手をぶっ潰すぐらいの強い気持ちがないといけない」（柱谷監督）のだ。水戸はその気迫が足りなかった。

このままで終わるわけにはいかない。橋本は力強い口調でこう口にした。「それぞれ契約もあるし、クラブライセンスの問題もあるけど、ファンのみなさんのために戦うということは絶対に忘れてはいけない。今日も多くの人が見にきてくれたわけで、そういう方のおかげで僕らの存在価値はある。最後まで何があろうと、結果にこだわってしっかり試合を終えないといけない。それが試合を見にきてくれる人や応援してくれる人への恩返しだと思っています」。もう一度、戦う意義を見つめ直してもらいたい。2年8カ月柱谷監督が培ってきた水戸の力はこんなものではないはずだ。

以上

2013.09.23 Reported by 佐藤拓也