「良い準備をして、良い取り組みをゲームの中でも行え、ゴールは取れませんでしたけど、そこまでやってくれた選手たちを、僕は責めることは出来ない」試合後、影山雅永監督が話したように、試合自体は岡山のペースで進んでいったが、最後に勝敗を分けたのは、北九州の選手たちの、90分間続いた運動量と集中力だったかもしれない。
久々に行われた13時キックオフの試合は、30℃こそは越えなかったものの、ジリジリとした陽射しは、少しずつ両チームの明暗に影響を及ぼしていった。
前半から前線の3人が、激しいプレスを掛け、中盤の選手は厳しいチェックで流れを切り、最終ラインの選手は北九州の2トップにボールを収めさせない。岡山の、全員攻撃全員守備は徹底されていた。あまりにも早い岡山の選手の動きだしと、流動的に動く押谷祐樹、金民均と石原崇兆に、北九州守備陣は手を焼いた。前半だけで11本のシュートを放たれ、23分の後藤圭太、41分の石原、42分再び後藤のシュート、どれか1本でも決まっていたら、ゲームの流れは決まっていたかもしれないが、その決定的な場面を、北九州のGK武田博行の神がかり的なセーブで防ぎ、他の危ない場面では最後までボールに食らいついたDFが、岡山にゴールを渡すことは無く、前半を無失点で凌ぎ切った。
前半、数こそは少なかったが、決して攻撃の形も悪くは無く、後半に入ってからは徐々に盛り返していった北九州。しかし、近藤徹志を中心にした守備網と、安定したセービングを見せるGK中林洋次の壁は予想通り堅く、攻めあぐねていた。
現状の打開を図りたい北九州の柱谷幸一監督は、FWに大島秀夫選手を投入。この交替策がずばりハマり、百戦錬磨のベテランFWは、前線にタメとスペースを与え、投入からわずか1分、非凡なプレーでチームに先制点を与えた。この日4試合目となったスタメン起用に、前半から存在感を見せていた井上翔太からパスを受けるとキープし、ペナルティエリアに進入した井上の動きを察知し、相手DFの股の間を通すパスを送った。走り込んだ勢いそのままに蹴り込んだ井上のシュートは、豪快にネットに突き刺さり、64分ホームの北九州が均衡を破る。追い掛ける立場になったとはいえ、このまま引き下がる訳には行かない岡山も、すぐさま反撃に転じた。それから9分後、右サイドから送った石原のクロスを、こちらも途中出場の清水慎太郎が、見事な胸トラップからボレーを叩き込み、岡山は同点に追いつく。
北九州にとっても、岡山にとっても負けられない戦いに、決着を付けたのは、この夏出場機会を求めてやって来た、先制ゴールを挙げた井上だった。自らドリブルで仕掛け、ペナルティエリア前でフリーキックを獲得。「みんな蹴りたがっていたが、押し切りました」(井上)。その強い想いが込められたシュートは、中林も一歩も動けない弾道で突き刺さり、87分北九州は勝ち越しをゴールを決める。90分プラスアディショナルタイム3分、最後までボールに食らいついた北九州が勝利し、8戦目にして対岡山戦初勝利を飾る試合となった。
余談だが、地元スポーツ番組今日の試合結果と、活躍した井上選手の紹介が放送されたらしい。もちろん、まだその頃にはスタジアムで作業をしていたので、あとで聞いた話だが、そこで紹介された顔写真は井上選手では無く、昨年同じように夏に加入した鈴木慎吾選手(現アルビレックス新潟シンガポール)のモノだった。それ自体は笑えない話だが、思えば昨年も鈴木選手加入後に、チームは勢いを取り戻し9位という好成績を残した。井上選手の加入が発表され、背番号が奇しくも鈴木選手と同じ背番号29に決まった時、起爆剤になればと思っていたが、その活躍振りに、北九州に大きな躍進を期待せずにいられない。
敗れてしまったとはいえ、自分たちの戦いを貫いた岡山。「(プレーオフ進出の)可能性がどうあれ、僕らはしっかり最後までリーグ戦を戦い抜く」。そう語った中林の表情は敗戦後とは思えない、見てるこちらが気持ち良くさせてくれる、清々しいモノだった。
以上
2013.09.23 Reported by 坂本真













