90分間集中力が途切れることのない、最後まで行方のわからない好ゲームだった。
芝生の状態が芳しくない中、序盤から主導権を握ったのは東京Vだった。高原直泰、巻誠一郎が東京Vの試合で初めて先発で2トップを組んだが、「イメージの共有はうまくいっていたと思います。2人の距離感もよく、タカさんは見えるところにいてくれました。良い距離感、良いタイミング、良い関係でプレーできました(巻)」。この元日本代表コンビが非常に機能した。
180cm超の長身の両FWは、どちらも空中戦に強く、ボールが入ればほぼ確実にキープできる。その特長が、荒れたピッチではさらに有効に働いたと言えよう。「グラウンドが悪いこともあったので、下でつないでミスしたりというよりは、タカさんも巻さんも収める力があるので、割り切って長いボールを多めに使いました。前の2人の個人の力を頼ったところはありましたが、実際に千葉もそういう方が嫌がっていましたし、ゲームの流れが来たのも、前の2人のおかげだと思います」と、鈴木惇が語ったように、リスクを負って“つなぎ”のスタイルに無理にこだわりすぎるのではなく、ピッチコンディションと個の特長から、長いボールを通常よりも多めに使い、高原もしくは巻が競って落としたセカンドボールをしっかりと拾って、そこから何度もチャンスを作ることが、特に前半はできていた。
「僕もタカさんも経験があるので、うまくスペースを見つけたり、相手の嫌なところ嫌なところに入って行ってというのを意識してプレーしていました」と巻。この1試合を通じて、若手の躍進が目覚しい東京Vの中において、彼らのような選ばれた熟練選手だけが持っているワールドカップ出場、さらに海外クラブでのプレーで培った“経験”がいかに重要で頼もしいか。改めて気づかされたのは筆者だけではないだろう。
そんな中で迎えた前半28分、東京Vのクロスボールからの攻撃を千葉・佐藤健太郎が大きくクリア。FWケンペスへ渡ればというところで、DF吉野恭平がガッツリと体を当てて競り勝ち、ボールに足を当てて小池純輝へと送る。受けた小池は自ら果敢に中に切り込み、ミドルレンジから思い切ってシュートを狙うと、バーの内側を叩いたボールはワンバウンド後、上ネットへと突き刺ささった。「まさかあんなにすごいシュートが飛んでいくとは思わなかった。非常にアグレッシブでいいシュートだった」三浦泰年監督も絶賛のゴールは、最終的には貴重な決勝弾となったのだった。
高原・巻コンビの活躍も大きかったが、この試合最大の収穫は、なんといっても16試合ぶりに無失点で終えることができたことである。「今日は、DFの選手が体を張ってしっかりと耐えてくれていました」と、中盤から前の選手たちは感謝しきり。その中でも、特に充実したプレーを見せたのが、J初先発となったルーキー吉野だった。小池の得点をアシストしたことでも証明されるように、フィジカルの強い外国人FWに対しても臆することなく体を張り、相手に仕事をさせなかった。また、東京Vアカデミー育ちの選手らしく、ボールの受け方、相手の交わし方などの体の使い方、テクニックには非凡さが溢れていた。なかなか出場機会がない状況下、吉野と共に悔しい思いを共有し、懸命な練習を積み重ねてきた巻も「吉野が先発だから、声を出してあいつを助けてあげようと思っていたんだけど、落ち着いてて。けっこう神経が図太いんだなぁと(笑)。良いプレーもしていましたし、頼もしいなと思って見ていました」と目を細めた。逆に、吉野は第32節に先に先発出場機会を得、いきなりゴールを決めて見せた巻の男気に魅せられ、「僕も巻さんみたいにチャンスで結果を残すことで、試合に出られないけど必死で頑張っている選手に刺激を与えられたらいいなと思います」と、試合前から語っていた。まさに、その通りの結果となったと言っても過言ではないだろう。「まずはチームに貢献したい。その中で、自分の特徴である対人の強さ、声で周りを動かすところなどをアピールできればと思います」。次節も福井諒司が出場停止だということを考えても、この試合でアシストも記録、完封勝利に見事に貢献してみせた18歳DFの台頭は、チームにとって非常に大きいだろう。
千葉も、東京Vを古巣とする森本貴幸の奮闘を期待し、移籍加入後4試合目で初めて先発起用したが、「もっと2トップがやりやすいサッカーができればよかったのですが、そういう感じが作れなかった」(佐藤勇人)。こちらは思うように機能しなかったようだ。森本だけではなく、千葉のストロングポイントとなっている米倉恒貴、高橋峻希の両サイドバックがどんどん前に攻め込み、そこを起点に前に厚みをかけて崩すという攻撃の形がほとんど見られることがなかった。もちろん、東京Vが徹底して練習から対策を練ってきた部分もあった。だが、対峙した小池が「米倉選手は、予想通り高く上がっては来ていたけれど、そこにボールが出てこなかった」と語っている通り、千葉としては思い通りの展開にできなかった。そこには、通常のピッチであれば、必ず中盤からつないできたはずの東京Vがロングボールを多用してきたため、中盤での攻防勝負とならなかったことが原因にあるかもしれない。それでも後半は立て直し、ペースを握る時間帯もあった。だが、鈴木淳監督も「米倉が飛び出すタイミングや、高橋峻希が前に出るタイミングというのは、中盤でもっとボールを効果的に動かさなければならない」と語っている通り、千葉が本来のように中盤から気持ち良くボールを動かしているシーンはほとんど見られなかった。
この試合に限らず、「特にオフェンシブの中盤、あるいはトップ下がうまく機能しないため、サイドバックも効果的な動きができない」ことが、思うように勝ち星を手にできない原因だと、鈴木監督は話す。また、田中佑昌も「遠目からでもいいからシュートを打って、本数を増やして、決定機もたくさんつくっていかないと。リスクを負ってでもゴール前に人数を掛けていかないと」と、今後への課題を口にする。
この敗戦で6位へと1つ順位を落とした千葉。J1昇格プレーオフ圏内に踏みとどまるためにも、正念場を迎えている。また、勝点を48に伸ばした11位の東京Vにも、J1昇格プレーオフ圏入りの可能性はまだ十分残されている。
残り8試合、最後の最後までこのラインの攻防から目が離せそうにない。
以上
2013.09.24 Reported by 上岡真里江
J’s GOALニュース
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