思いは、届かなかった。今シーズン最多12003人の観客を集めた熊本のホーム最終戦は、アディショナルタイムの小野瀬康介の決勝点で横浜FCが勝ちきり連勝。熊本は北嶋秀朗のホームでの引退ゲームを勝利で飾れず、結果として順位も19位に後退した。
横浜FCにとっては、「試合開始から熊本がアグレッシブに来ることは予想していた」(山口素弘監督)ことである。しかし「この1勝で自分たちの価値を上げるゲームにしたいと思って毎週やっていますし、相手がこういう雰囲気だからこそ、こっちのテンションも上がりました」と、熊本でもプレーした渡辺匠が話した通り、熊本が優位に進める中にあっても決して落ち着きを失わず、横浜FCはじっくりとその時を待った。
最終的にゴールを仕留めたのは90+3分。プレビューでは横浜FCに前後半立ち上がりの得点が多いことについて触れたが、データを見ればラスト15分の得点も多い。2008年にJ2に降格して以来、力のある選手が揃っていながらなかなか昇格を果たすまでにはいたらない横浜FCではあるが、土壇場で勝負を決めることができるのが、1度でも昇格を実現したことのあるクラブと熊本との違いなのではないかと思わされる。
熊本は、勇気を持って最終ラインを押し上げ全体のゾーンをコンパクトにして序盤からペースを握った。前線から積極的にプレッシャーをかけ、田原豊へのロングフィードは矢野大輔をはじめ3バックが身体を当てて跳ね返し、こぼれたボールに対しても黒木晃平や養父雄仁が細かく拾う。ボールを奪われた後の守備への切り替えも早く、そうした対応から横浜FCに攻めさせる時間を与えなかったことは確か。ただ、ボールを保持して動かす時間は長かったものの、攻撃に関しては最後のひと工夫が足りずに前半のシュートは3本。数多く作ったセットプレーの場面も含め、決定機と呼べる形に持ち込めていたわけではない。
左太腿を痛めた吉井孝輔と青木良太の交代で、前半のうちにすでに1枚のカードを切っていた熊本は、49分に仲間隼斗を下げて北嶋を投入。これによってチーム全体が前半に増して攻撃的になったが、それでも、中盤でのタイトな守備で一度は奪われたボールをすぐさま寄せて取り返すなど、リスクをかけてもゴールを、勝点3を取りにいく姿勢はチーム全体から感じられ、実際に決定的な場面は前半よりも多く作った。
なかでも最大のチャンスは62分。横浜FCのDFラインの背後に飛び出したファビオが養父からの浮き球のパスを納めてボックスまで持ち込んだ場面だ。ファビオは飛び出して来たGK渋谷飛翔もかわすが、力ない右足のシュートはカバーに入った野上結貴に止められ得点は奪えず。その後、熊本は68分に片山に代えて大迫希を送り出し、藏川洋平を左へ移してサイドからのクロスで得点機を作ろうと試みるも、「皆のゴールへの意識が強くて真ん中真ん中に行ってしまった」(池谷友良監督)ために、広い展開から横浜FCを揺さぶれない。
逆に横浜FCの山口監督は、まず55分に野崎陽介から左に内田智也、63分に田原から永井雄一郎、そして76分に高地系治からパトリックに代え、あわせて寺田紳一をボランチに動かし、後半に入って前線にスピードを加える。決勝点はそのスピードを生かした形でこそなかったが、熊本陣内でボールを奪って作り直し、市村篤司から寺田、パトリックとつないだ連携に関しては山口監督も「狙い通り」と振り返ったように、今季取り組んで来た、そしてここ数試合の課題だったもの。もちろん、最後の小野瀬のシュートそのものも素晴らしかったが、押し込まれる時間を耐えたことに限らず、「チーム全体として粘り強い戦いができたから」(山口監督)こその決勝点であり、それはつまり、ゲームの流れを汲んで要所を抑えることができていたからだと言える。裏返せば、この点が熊本との大きな差なのだ。
熊本にとってはまさしく今シーズンを象徴するような展開となってしまった一戦。単にフィニッシュの精度や崩しのアイデアの拙さという部分にとどまらず、ゲーム全体を通した流れや勝負の綾(あや)をうまく掴みきれないところにも、その要因はある。
「頑張るだけじゃ勝てない。いい時間帯とか、自分たちのいい流れでなかなか得点できないところを変えていかないと、上位に行くのは難しい。勝負強いチームになっていくには、練習からの1つ1つのプレーに対するこだわりとか、意識が大事」。熊本に来ての4シーズン目も目標とする成績に届かなかったことを受け、南雄太はそう話した。
試合後に行われた北嶋の引退セレモニーは心温まるもので、クラブがスローガンとして掲げている『絆』を感じさせる内容、構成だった。だがリーグ戦はもう1試合残っている。
いろんなことがあり、目標としたプレーオフ進出にも及ばなかった2013シーズン。南が話したようなチームへと変わっていくには、たしかに短くない時間が必要かもしれない。ただ、次の1試合で現役生活を終える北嶋が、熊本で伝え、残そうとしたものは、少なくとも毎日接してきた選手たちには響いているはず。神戸に挑む最終節、1人1人がそれをしっかり表現して、1年間を締めくくりたい。
以上
2013.11.18 Reported by 井芹貴志













