5月2日（土） 2009 J2リーグ戦 第12節
岐阜 0 - 0 東京Ｖ　（14:04／長良川／4,860人）
スカパー！再放送 Ch182 5/3（日）07:00〜（解説：大野聖吾、実況：松井秀、リポーター：桑原麻美）
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お互いがお互いの役割を理解し合った上で繰り広げられるサッカーは、こんなにも面白いものか。ここ数試合忘れかけていたものを、改めて思い出させてくれた一戦であった。

この試合、MF徐冠秀の出場停止を受け、松永英機監督はボランチにCBの菊池完を起用。攻撃的な菅和範と、守備的な菊池。ここ数試合はダブルボランチのバランスが崩れ、バイタルエリアに広大なスペースが生まれ、そこを相手に有効活用されていただけに、ボランチの役割分担を明確にしてアンカーを置くことで、中盤の活性化を狙い、この試合に挑んできた。
この狙いが的中し、前半はこの2人が中盤をコントロール。ここ数試合間延びきっていた中盤がコンパクトになり、より前線の4枚へパスが行き渡る様になった。試合中、CB川島眞也と菊池が何度も話し合い、菅のポジショニングを微調整すると、菅も2トップに近い位置でプレーすることを意識し、2トップへボールを供給。攻撃の起点が深い位置で生まれたことで、嶋田正吾、高木和正の両サイドが中に絞ったり、縦へ抜け出したりとバリエーションある動きで仕掛けられるようになり、フィニッシュで終われる回数が増えてきた。

一方の東京Vも前線の長身FW林陵平、大黒将志の2トップにボールを集め、彼らがバイタルエリアでボールキープすることで、右のレアンドロ、左の滝澤邦彦のサイドアタックを引き出した。その中でもこの日の大黒のキレは凄まじく、際立っていた。裏への飛び出しだけでなく、ドリブルでの仕掛けからポストプレー、パスまで多岐に渡って前線の存在感を発揮。岐阜の脅威となり続けた。

しかし、岐阜は「川島に自分がどの位置にいればやりやすいか話し合った」と菊池が語ったように、彼がCBの前でしっかりとポジション取りをし、ターゲットマンの林に入ってくるボールに対し、要所では素早く挟み込んで、自由を奪った。
これは前々節の鳥栖戦、前節の富山戦の反省が生かされていた。鳥栖、富山共に前線に長身のターゲットマンがいた。両チームともこのターゲットマンに当てて、セカンドボールを積極的に拾って攻撃に転じる作戦をとってきたが、冒頭でも述べたように、岐阜はダブルボランチが共に前掛かりになってしまい、CBとの間にスペースを生み出し、相手のクサビ、ロングボールを簡単にFWに収めさせてしまっていた。これにより、2列目以降の飛び出しを引き出され、常に劣勢を強いられる苦しい展開に陥り、結果として敗戦に繋がった。ところが、この試合では菊池がしっかりとスペースを生め、ターゲットマンに自由を与えなかったことで、攻守に渡ってチームが活性化した。それでもピンチが数回あったのは、逆に言えば、岐阜の守備がうまく噛み合っていても、チャンスを作り出す東京V攻撃陣の個の能力の高さの表れだろう。

スコアレスで迎えた後半も、前半同様にお互いが仕掛け合う、活発な試合展開となった。この日の岐阜で際立っていたのはラインコントロールだった。ダブルボランチが攻守においてバランスの取れたポジションにいるため、ここ数試合ではまったくといっていいほど出来ていなかった最終ラインからのビルドアップが出来るように、中盤の構成力も格段に増した。
岐阜の組み立てに業を煮やしたのか、徐々に東京Vは前線にロングボールを放り込むサッカーにシフトし、思うように攻撃が組み立てられず、フラストレーションのたまる展開となった。だが、岐阜も決定機を作れど、ゴールに結び付けられず、試合はスコアレスドローに終わった。

岐阜としては、どうしても欲しかったホームでの勝ち点3は掴めなかったが、ここ数試合見せていた閉塞感が漂うサッカーではなく、ピッチ上では複数の選手が一連のプレーに関わり、躍動感溢れるサッカーが展開された。前節の富山戦後に、菊池が指摘した「自分の役割を見つけるスピードが遅い」という深刻な課題に対し、解決するための一つのきっかけが生まれた。自分がチームのために何をすべきか、試合前から明確化したことで、ここ数試合で暗い闇に入り込んでいたチームに、一筋の光が差し込んだのは間違いない。

しかし、ここまでチームに差し込んだ光はいくつかあったが、それを生かしきれなかった事実がある。この事実は考え方を少し変えるべきだという警鐘を鳴らしている。それはいいサッカーが出来ても、至上命題だった勝点3を掴めなかった事を、『次に繋がる』と言うのではなくて、『なぜ勝点2も逃したのか』ともっと大きな問題として捉え、危機感と手ごたえの双方を持って、次なる相手である強敵・C大阪に挑んでいかなければならない。一人ひとりが『それなりに』役割を全うすれば、いい試合をすることが出来ることが証明されただけに、次は一人ひとりが『完璧に』役割を全うすれば、勝点3を掴むことが出来ると考えるべきである。

すべてはそこから始まる―。

以上

2009.05.02 Reported by 安藤隆人