11月20日（日） 2011 J2リーグ戦 第36節
水戸 0 - 1 栃木　（13:04／Ｋｓスタ／4,759人）
得点者：45' サビア（栃木）
スカパー！再放送 Ch184 11/21（月）後06:30〜
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その時、歴史は動いた。

前半のアディショナルタイム目前、村田翔の直接ＦＫをがっちり正面でキャッチすると、ＧＫ鈴木智幸は即座に前線へロングフィード。このボールを河原和寿が巧みな胸トラップで収め、右サイドからドリブルで内側へ切れ込む間に、大外を廣瀬浩二が、そのひとつ内側を入江利和が突き、さらに後方からはサビアが弾かれたように猛然と走り込んできた。視野を確保し、複数の選択肢を与えられた河原。絶妙のタイミングでラストパスを送り届けた相手は、サビアだった。ＧＫ本間幸司を交わしにかかったサビアを、堪らずロメロ・フランクがエリア内で倒してＰＫを獲得。自ら掴み取ったＰＫを、サビアはＧＫの逆を突いて右隅に沈めた。値千金の先制弾は、そのまま決勝弾となった。栃木は水戸との北関東頂上決戦を制し、クラブ初のタイトルを手中に収めた。

何度も水戸の前に涙を呑んできた歴史を、とうとう塗り替えた。一昨年は水戸からの初勝利に、今季は水戸の連覇を阻んでクラブ初タイトルに貢献した河原和寿は、その喜びをこう表現した。
「小さなタイトルかもしれないが、僕達にしてみれば大きなタイトル。取れたことでホッとしている。サポーターには『おめでとう』と言いたい。僕自身、タイトルを取る瞬間に立ち会えてうれしかった」
苦節３年。ようやく手にしたタイトル。俺達が、北関東王者だ。

試合序盤から睨み合いとなった決戦は、徐々に水戸のリズムとなる。その原因を大久保裕樹は、「鈴木選手にボールが入ってから、その周りの動き出しに対して順応するのに時間がかかった」と振り返る。鈴木隆行にボールを集め、その周辺を小澤司、小池純輝、島田祐輝が衛星のように動き回り、セカンドボールを次々と拾ってはチャンスを作られてしまう。ルーズボールが水戸に転がる不運に加え、ＣＫからは２度も冷や汗をかかされた。

しかし、意外なことにピッチの選手は冷静だった。「押し込まれても点を取られなかった。それはうちのペースだと感じていた。あまり焦ることなく割り切れた」と河原が証言している。劣勢に回っても動揺することなく、雨風が止むのをじっと待つ忍耐力を、栃木は十分に兼ね備えている。だからこそ、「ウノゼロ（１-０）」は理想ではないが、「ウノゼロ」でも勝ち切れる。それが栃木の強みだ。

松田浩監督は、「気持ちを切らさずに我慢強くやれば、後半は風向きが変わるだろう」と試合の流れを読んだが、まさにその言葉通りの展開となる。前半の終了間際、ワンチャンスを物にしてゴールを取り切り、後半は持ち直した栃木。コンセプトである堅守速攻に水戸をはめ込んだ。追加点を奪えなかった課題を残したが、シュートのほとんどが決定的なものであり、中３日での連戦の疲労を言い訳にしないパフォーマンスで見事に勝ち切った。

「タイトルを取ることでサポーターの皆さんの応援に報いることができると思っていた。だから、皆でこれだけは取ろうと。非常に意味のあるタイトルだと思う」（松田監督）
最速でのＪ１昇格を逃し、天皇杯も３回戦で敗退。声を嗄らし、遠方のアウェイにも駆け付けるサポーターの絶え間ない声援に報いるには、北関東のタイトルを是が非でも取らなければいけなかった。日頃からのサポートに、恩に最高の形で応えられた。そのことに指揮官は安堵し、笑顔こそ見せなかったものの、これまでにない穏やかな表情を見せた。

クラブ史に新たな歴史を刻み、経験値を積み上げられた。目標をひとつ達成したが、まだまだリーグ戦は続く。久しく勝てていないホームゲームでの勝利を目指すことも、クラブ最上位で今季を締めくくることも、いまだ達成されていない北関東ダービーの無敗優勝の野望も、勝点と得失点で過去最高の数字を残すことも、果たさなければならない目標として存在している。常にモチベーショは見出せるし、見出せないのならば北関東の雄としては相応しくない。栃木には飽くなき向上心と飢餓感を持ち合わせた、北関東を代表するクラブに成長して欲しい。いや、栃木ならば成れるはずだ。それだけのポテンシャルは秘めている。

以上

2011.11.21 Reported by 大塚秀毅