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【J2:第39節 山形 vs 北九州】レポート:攻守に攻めの姿勢を押し出した山形が8試合ぶりの勝利をつかむ! 北九州は逆転勝利した前節の再現ならず。(12.10.22)

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後半アディショナルタイムも残り時間わずか。相手のクリアボールを、守備固めで5バックに入った西河翔吾が利き足ではない左足で前方へ大きく蹴り返した。山崎雅人がフリックオンしたボールは10メートル先、ハーフウェイライン付近に立つディフェンスラインの背後に転がっていく。山形の選手も追うのをやめ、ディフェンダーたちがGK佐藤優也に任せたそのボールを、ただ一人追っていったのは山崎自身だった。すでに両足をつっていたという状態で猛然と佐藤にプレッシャーをかけると、フィードの瞬間、ジャンプしてボールに体全体をぶつけていった。判定はハンドとなり山崎はイエローカードを受けたが、この試合をもっとも象徴するこのシーンから間もなく、山形の8試合ぶりの勝利を告げる笛がスタジアムに響いた。

ここ2試合は無得点、シュート数も減少傾向にあるなかで、仕掛ける意欲を持ち続けることが大きなテーマだったが、「もっと大胆に、思い切りよく、大きな動きで、崩しとフィニッシュの形に持っていきたい」と試合前に話していた奥野僚右監督も、試合後には「攻撃でも守備でも攻める姿勢、そういうものを表現してくれたんじゃないかなと思います」と振り返った。それが実を結んだのが7分、サイドハーフで起用された中島裕希の先制ゴールだった。攻撃を組み立て直し、右サイドの中島にボールが回ってきたところで、「相手のサイドバックがボールに食いついてたので、裏にスペースができた」と山崎が迷いなく右スペースを突いた。竹内涼がマークに付いていたが、一歩早い動き出しでボールに追いつくとそのまま中央へ折り返し。足元で受けた林陵平はいったんターンの姿勢を示したものの、4人を引きつけている状況を確認すると、戻して中島のシュートを促した。シュートコースは限られていたが、「いいボールが来たからダイレで打とうと。ワントラップしてたら多分寄せられてた」(中島)とためらわずに打ったことで相手に当たり、シュートコースを変えながらゴールマウスに吸い込まれた。

これまでのスパイラルを先制点で断ち切り、主導権を握ったまま試合を進めた山形に対して、北九州は逆転勝利を収めた前節の勢いを持ち込むことができずにいた。「プロでありながら、立ち上がりから何度も何度も滑っているような選手がいる。タフさが感じられない、そういう前半の入りから失点をした」と試合後に話した三浦泰年監督は、「90分間のなかで、準備段階のなかでいろんなことを準備しながらやったものの、そういう部分ではない何か欠けているものが多かった」とこの試合の問題を厳しく指摘している。

前半、北九州がもっとも可能性を感じさせたシーンは28分。左タッチ際でボールを持った冨士祐樹がヘッドアップした瞬間、渡大生が前田和哉を引き連れて左サイドへ流れると、山形のゴール前にはポッカリと大きなスペースが生まれた。そこに入り込み、冨士からのクロスをフリーで受けたのは端戸仁。しかし、反転し左足で放ったシュートは枠の上を越えていった。冨士から浅いラインを狙った端戸へのルートはその後もよくとおっていたが、オフサイドになるケースが多く、下りて受ける際も、山形のセンターバックとボランチの間の緻密な連係で起点をつくらせてもらえなかった。出場停止明けのキローラン木鈴が着地で右膝を痛め、35分に新井涼平を投入するというアクシデントに見舞われながら守備では落ち着きを取り戻していたが、前半終了間際に木村祐志のフィードを竹内がヘッドで落とした場面も、渡のシュートがミートせず、山形1-0でリードのまま前半は終了した。

「後半立ち上がりから行くこと」「もう1点奪うことが大事」。ハーフタイムに、奥野僚右監督は、前半途中から停滞した攻撃のネジをもう一度巻き直す指示を選手たちに伝えている。押し上げる山形に対し、北九州はカウンターの起点も山形・秋葉勝によって巧妙に潰されていたが、安田晃大から林祐征への交代が流れを変える。56分、中央でさばき、鈴木慎吾のクロスをボックス内で胸トラップするなど、林の高さ、強さを強烈に見せながらサイドからの攻撃を増やしていった。

押された時間帯に再び山形に流れを引き戻したのは、ボランチの宮阪政樹。66分には渡から林への横パスをインターセプトし、疲労から上がりの遅い味方に代わりドリブルで時間をつくった。宮阪は終盤にかけても冷静にパスコースを読んで攻撃を遮断したほか、北九州の前3枚と後ろ7枚の間にできたスペースでボールを受け、安心できる預けどころとして機能していた。残り20分頃から、奥野監督は2枚のカードを次々に切ったが、萬代宏樹は相手のフィードを2度ブロックするチェイシングで、比嘉厚平は主に右サイドからペナルティーエリア内への仕掛けで、相手を押し込むと同時に味方先発メンバーの負担を軽減した。最後はブランキーニョを下げ、西河を入れて5バックにする手堅い采配も駆使。狙った2点目は取れなかったが、気持ちを込めて走りきる90分が、欲しかった勝点3につながった。

先制されたあともロースコアでの推移を予想し、フォワードの投入で形勢を変えたかった北九州・三浦監督だったが、「うち自身も最後のバイタルから裏を抜く、または相手に脅威を与える攻撃のアイデアとイマジネーション、非常に乏しかったなと。原因は我々にあったのかなと考えております」と2試合連続の逆転勝利は実現できなかった。

一方、勝った山形も昇格の可能性をわずかに広げることはできたものの、この勝点3で大きく状況が変わったわけではなく、ましてや、最大の目標を叶えたわけでもない。山崎は「次につなげないと何の意味もないですし、次勝てれば本当に波に乗れると思います」と早くも次節・千葉戦へ気持ちを切り換えていた。苦しい時期をようやく乗り越えた奥野監督が語る。「これほど感情が高ぶったり、揺さぶられる。サッカーってやっぱり素晴らしいスポーツだなと改めて認識しましたし、情熱を燃やせば燃やすだけ、何か感じるものや得るものが大きいんだなということを今日は実感しました」。勝利の喜びを思い出してしまった以上、何度でも味わいたいとの思いは自然なものだ。そのためなら、もうしばらく続く歯を食いしばる日々にも耐えられる。

以上

2012.10.22 Reported by 佐藤円
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