「闘莉王から我々が学ぶことはある」。敗戦の弁を語るF東京のポポヴィッチ監督は熱っぽい口調で、本職がDFのストライカーを絶賛した。勝点3を奪った名古屋にあって、F東京になかったものは一言でいえば“決定力”。それは勝者も敗者もほぼ等しく抱える問題点でもあった。
今季のJ1リーグを見渡せば、ふと気づくのが上位2クラブと3位以下の得失点差の違いだ。広島、仙台がともに20以上の「貯金」を抱えるのに対し、3位以下は2桁にも届かない。これは今季の接戦模様と無関係ではないだろう。得点数が多いチームは失点が多く、失点数が少ないチームは得点もまた少ない。今節を迎える段階での名古屋などは−1という、5位という順位では考えられない得失点差数だった。それは9位のF東京も同じで、30節終了時点で+1。今回の対戦は攻撃的志向だが得点力不足というチーム同士の対戦だった。
果たして、試合展開はほぼ90分にわたってその現状が如実に現れた。互いにやりたいサッカーは目に見えるのだが、ゴールまでの道筋がどこかで途絶えてしまう。F東京はポゼッションの質も高く、縦パスの織り交ぜ方も絶品。しかし肝心のフィニッシュへの持っていき方が見えてこない。名古屋は基本的には1トップの田中マルクス闘莉王を起点に攻撃を組み立てることを目指すも、ビルドアップするのか、まず闘莉王に当てるのかという意思統一が不明瞭だった。それゆえ試合は動きがあるものの、両ペナルティエリア間を行ったり来たりするだけの実のない打ち合いが繰り返された。
そこで違いを見せたのが、冒頭にもある通り闘莉王だ。前半30分、左からのCKをゴールに押し込んだのだが、見た目には簡単なゴールだ。小川佳純の蹴ったボールはGK権田修一の手をかすめてファーサイドのポスト近くに飛んだ。走りこんだ闘莉王がこれを体で押しこみ、先制。しかし試合後の両チーム指揮官はこの背番号4のFWを絶賛した。ポポヴィッチ監督が「あれは闘莉王のゴールへの執着心が生んだゴール。ゴールを決める選手というのは常にゴールに飢えているからこそゴールを決める場所にいる」と言えば、ストイコビッチ監督も「フィーリングや感触はもちろんのこと、予測にとても長けた選手。彼はいつも“いなければいけない場所”にいてくれる。ネットを揺らすためには、どこにいれば良いのかを嗅ぎ分ける、それが闘莉王の真骨頂だ」と賛辞を惜しまなかった。決定力を求めてやまない両チームだけに、チャンスで決めきる能力を持った選手は何より貴重なもの。それゆえにストイコビッチ監督は「今日は勝ちに値するプレーで勝つことができた。ただ忘れてはならないのは、金崎と藤本、永井がゴールチャンスを逃してしまったことだ。2-0や3-0で勝つことも可能だったが、今日の結果はこれで満足とする」と攻撃陣に対し苦言を呈することを忘れなかった。
後半はF東京が猛反撃に出たが、効果率を向上させることはできなかった。シュート数にして12対3と名古屋を圧倒したが、決定機と呼べるものは皆無。名古屋もまた指揮官の言葉通り3本中2本が決定機と呼べるシュートだったが、追加点は最後まで奪えずじまいだった。ちなみにF東京の選手たちはみな一様に「今季の悪いパターンの典型」と認識しており、いかにして得点を取るかの整理がついていない印象も漂わせた。たとえば石川直宏は「自分たちがシュートチャンスを作るまでの過程、フィニッシュのところでのイメージ不足」と言い、米本拓司は「縦パスを入れた時やセンタリングを上げた時の中の人数が少なかった」と言う。それは名古屋の「それほど難しい場面はなかったし、大きなピンチもなかった」(楢崎正剛)、「前に勢いを持ったままシュートというよりは、ちょっと横にそれて勢いが減った感じのシュートが多かった」(阿部翔平)という印象とも一致する。もちろん名古屋が粘り強く守ったことが大前提なのだが、この日のF東京の攻撃に迫力が足らなかったこともまた事実だ。
オープンな展開の1−0はあっという間に過ぎ、名古屋はラスト5分で闘莉王をDFラインに戻して3バックで守備固め。最後は負傷で半年ぶりの出場となる磯村亮太を今季ラストの聖地・瑞穂で起用する演出も見せつつ、きっちり4分のアディショナルタイムをやり過ごして勝点3を手にした。名古屋は実に9月1日の24節柏戦以来、2か月ぶりのホーム勝利だった。久々に地元のサポーターたちと歓喜を分け合ったチームは他カードの結果を受け4位に浮上。勝点では3位浦和に並び、現状の最終目標であるAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得へ大きく前進した。
リーグ戦は残すところアウェイ2試合とホーム最終戦を残すばかり。次節のアウェイ磐田戦は順調にいけば、キャプテン楢崎のリーグ通算500試合出場達成というメモリアルゲームにもなる。闘莉王のFW起用というスクランブル状態はまだまだ続きそうだが、「試合中に修正して対応できたのは良かった点」(阿部)という上向きの部分をポジティブにとらえ、このまま一気にトップ3入りを果たしたいところだ。
以上
2012.11.08 Reported by 今井雄一朗















