先に会見場に現れた鹿島・ジョルジーニョ監督は微笑を浮かべ、「目的は達成できた」と語った。そこに『最低限の』という注釈を挟まなかったところからも、選手とサポーターはともかく、指揮官は満足しているように見えた。対照的に大宮・ベルデニック監督は、「試合の内容、クオリティは高かったが、この結果には満足できない」と渋い顔。鹿島は勝点38の13位、大宮は勝点36の15位で迎えた残留争いに絡む一戦は、「まずは負けないこと」というジョルジーニョ監督の意図通りに決着した。
鹿島は4日前に行われたヤマザキナビスコカップ決勝で、全体的には清水にボールを支配されながら、カウンターからの2発で栄冠を手にしている。主導権にこだわらず勝つためのサッカーに徹したときの鹿島の強さを、まざまざと見せつけた。そしてこの試合も、鹿島が守備的に戦う理由は確かにあった。「120分試合をして中3日で戦わなければならず、体力的・精神的なストレスという条件を考えなければならなかった」(ジョルジーニョ監督)のはもちろん、残留争いの大宮が勝点3を取るため攻撃的に来ることも分かっている。鹿島としては、カップ戦で見せたように、攻めてくる相手をカウンターにはめれば良かった。リーグ戦ここ7試合で3失点の大宮の堅守を崩しに行ってカウンターを食らうよりも、そのほうが明らかに得策だ。何より勝点に余裕のある鹿島にとって、引き分けはそれほど悪い結果ではない。
「前半はドゥトラの前への推進力を生かしてカウンターをねらった」とジョルジーニョ監督が明かした通り、序盤から鹿島は守備ラインを低く構え、大宮に誘いをかけた。ただ、「攻撃しているときから、守備の準備を整えておく」と試合前に北野貴之が語ったように、大宮の選手たちには鹿島のカウンターへの警戒心が深く植え付けられていた。大宮がポゼッションして攻めるよりも、ラインを高く保って前線からアグレッシブにチェイスし、ショートカウンターでそれほど人数をかけずに速く攻めきるやり方を選択したことで、鹿島の思惑は多少狂った。大宮がバランスを崩してまで攻めてはこなかったことで、効果的なカウンターはくり出せず、「逆に奪われてカウンターという場面が少なからずあり、その中で押し込まれてしまった」(青木剛)。鹿島のゲームプランとして外れてはいないが、少なくともねらい通りという状況でもない。前半の鹿島のチャンスは岩政大樹のヘディングがバーを直撃した場面と、興梠慎三の叩きつけたヘディングを下平匠がライン上でクリアしたもので、いずれもコーナーキックからだった。
とはいえ前半の大宮も、シュートは4本と少ない。「相手の戻りが速くて、いつもならカウンターになっているところがカウンターにならなかった。その後でつなぐこともできていたけど、良いとこまでは行けてもその先はしっかり守られたという感じ」(金澤慎)というところ。こちらも決定機は2回。右サイドの高い位置でボールを奪った渡邉大剛が中央の東慶悟に送り、東のヒールパスからズラタン、その落としを東がシュートした場面と、コーナーキックから河本裕之がフリーでヘディングを合わせたが、いずれも曽ヶ端準の攻守に阻まれた。
後半、鹿島が動く。ドゥトラに代えてトップ下の位置に「レナトを入れて、相手陣内でポゼッションしてキープしながらゴールに攻めていった」(ジョルジーニョ監督)ことで、開始早々大宮を押し込んだ。すかさず大宮もカウンターで応酬。前半とは逆の展開となる。次第にオープンな撃ち合いに発展し、62分に東が右サイドからペナルティエリアに侵入して左足シュートも曽ヶ端がセーブ。65分には新井場が左サイドを突破し、正面からの遠藤康のシュートは下平がブロックするが、守備に戻った東からボールを奪った柴崎岳のミドルシュートが枠を襲った。
この状況が続けばどちらかに先制点が入りそうではあった。大宮はチョ ヨンチョルに代えてノヴァコヴィッチを投入して勝負をかける。しかし、より押し込んでいた鹿島は70分、興梠慎三に代えて右サイドハーフに増田誓志を投入した。増田の「監督からは『サイドに相手が開くので、守備を整えるように』と言われて入った。攻撃では特に何も言われていない」というコメントを見る限り、その意図は守備にあった。鋭い飛び出しで大宮の最終ラインに脅威を与え続けていた興梠を失ったことで、鹿島の攻撃は停滞。ボールは保持していても横パスばかりになり、後半のシュートは4本に終わった。
大宮は74分、左サイドを東とズラタンで崩し、折り返しを渡邉大剛がねらうが枠外。最大の決定機を逃した後は、こちらもペナルティエリアまでボールは運ぶもののチャンスは少なく、平日夜の試合にもかかわらず早い時間からゴール裏を埋めたサポーターの、勝点3の期待に応えることはできなかった。
大宮にとっては、「守りきる安定性は出てきたが、点を取って勝ちきる安定性はまだない」(ベルデニック監督)以上、ジョルジーニョ監督が引き分けOKのプランを発動した段階で、この結果は必然だった。ただ、スコアレスドローとはいえ、いわゆる“しょっぱい試合”ではなかった。確かに決定機の数は少なかったが、シュート数は大宮10本と鹿島が12本で、それ以上に、互いにペナルティエリアに侵入する場面は多かった。拙攻と言ってしまえばそれまでだが、むしろ両チームの守備意識の高さが讃えられるべきだろう。
神戸が負け、G大阪が引き分け、新潟が勝ったことで、残留争いはますます混沌としてきた。大宮は勝点1しか得られなかったとはいえ、神戸を抜いて順位を1つ上げたし、8戦連続無敗を継続したことは選手たちにさらなる自信を与えている。次節、アウェイのC大阪戦はカウンターを武器とする大宮にとって格好の相手。勝って勝点を40に乗せ、磐田とのホーム最終戦を迎えたい。
以上
2012.11.08 Reported by 芥川和久















