桜はすでに散り、新緑を撫でる風が心地いい季節になってもなお、川崎Fが勝てない。嘆息しても、現実は厳しい。リーグ戦6試合を終えた成績は3分3敗。降格圏を目前にした15位に沈んでいる。

勝てない理由はおそらくは単純で、川崎Fが研究されたということ。パスを大事にする川崎Fに対し、対戦相手は固い守備ブロックの構築や、中盤での必死のプレスで対抗してきた。勝ててはいないが、それでも慰めになる要素はあった。それが相手を上回るシュート数である。昨季との比較において、最も成長した点がシュート数の多さだった。ところが前節の横浜FM戦でこの心の拠り所までもが打ち崩されてしまう。川崎Fはシュート数でも横浜FMに上回られてしまう。内容の悪さは明らかで、そこに勝てない現状が追い打ちした。試合後に、サポーターに挨拶する川崎Fの選手たちは、大きなブーイングを浴びせかけられる事となった。

「よっぽどのことですよね」と険しく語るのは田中裕介。「前のチームでは2〜3試合でブーイングされていた。でも、フロンターレのサポーターはそう簡単にブーイングしない。そのサポーターがブーイングするくらい悔しかったんだということを受け止めないとダメだと思います」と話しつつ、それだけの辛さを与えてしまったことの責任を取るように「負けて笑顔がないまま帰るのはみんなつまらないと思う。どうしても勝って終わりたい」とこの仙台戦での勝利に意欲をにじませていた。

そんな川崎Fにとって、この仙台戦はプラスとマイナスの両方の材料がある中で行われる試合となる。まずはプラス面。腰痛により戦線を離脱していた大久保嘉人が、全体練習に復帰した。突発的に腰痛を発症するという大久保は、突発的に症状が収まるのだとも話している。足が上げられない状態だったという大久保は、18日の時点では問題がない状態に復調。全体練習後に、居残りでのシュート練習を行った大久保は「感覚を取り戻すため。力入るかなと思って。徐々に良くなってる。大丈夫です」と笑顔で述べていた。

そんな大久保はこの仙台戦について「最初、裏で起点を作って間延びさせたりするやりかたもある」と述べている。仙台がコンパクトな中盤でプレッシャーを掛けることを前提に、立ち上がりの時間帯をセーフティーに入ることを考えてもいいのではないかとの話である。どうしてもパスの意識の強い川崎Fは、蹴ることをためらいがちになる。ただ、どんな形でも相手を攻略出来ればそれでいいわけで、またそもそも攻撃の形に制限があるわけでもない。そういう意味で、現実的に戦う勇気を持つことの重要性を口にしていた。

ただ、そんな川崎Fにとって痛いのが中村憲剛の欠場が予想される点。16日の練習を休んだ中村は、周りを取り囲む記者陣に対し左足の内転筋を痛めているのだと説明。直近の2試合を痛みの中でプレーしてきたのだと話しつつ、しっかり治すべく方針を転換させたのだと述べている。その中村については風間八宏監督も「今の状態で無理させるべきじゃない」と治療に専念させる旨述べている。中村という長い距離のパスを通せる選手が欠けるのは川崎Fにとって間違いなくネガティブな要素となる。そしてその中村からのパスを受ける立場である大久保は「オレにとっては憲剛さん一人いればパサーが増えます（だから欠場は痛い）」と話しつつ「痛いことは痛いが、代わりに出る選手はチャンスだし頑張ると思う。いつかはケガすることもあるし、そこは総力戦」と前を向いていた。横浜FM戦のメンバーからの入れ替わりによって試合はどんな結末をもたらすのか、見守りたいと思う。

リーグ戦6戦勝ち無しの川崎Fと対戦する仙台は、前節のF東京戦を2−1で勝利。ACLでの初勝利に続く公式戦での連勝ということで一気に波に乗りたいところだろう。その仙台は試合の序盤はロングボールを辞さない姿勢を見せており、手堅い一面を見せる。その一方で、試合が進むに連れ梁勇基を経由させたパスワークを発揮し、サイドからの攻撃によるクロスボールの多用という攻撃に特徴を見せる。気をつけるべき点は書ききれないほど存在しているがFWのウイルソンは、強さとともに技巧的なシュートを蹴り込む決定力を持っており、怖い存在である。そのウイルソンとコンビを組む事が予想される柳沢敦の巧さに関しては周知のとおり。またこの試合には、ケガにより長期戦線離脱を余儀なくされていた赤嶺真吾のベンチ入りが予想されており試合展開によってはピッチに立つことになるだろう。

ゴール前を固めすぎると、ボランチの富田晋伍、角田誠のミドルシュートにさらされることになる。富田には昨季の等々力での対戦で、また角田はリーグ戦初先発の前節F東京戦で見事なシュートをねじ込んでいる。さらに、仙台自慢の得点パターンとして梁勇基が蹴るセットプレーがある。だからこそ川崎Fは引きすぎず、相手にセットプレーを与えない試合運びを目指したい。そのためにもこれまで磨いてきたパスワークを発揮したいところだ。

なお、前節F東京がCKから奪った1得点は、ニアサイドですらし、ファーで合わせたもの。ちなみに今季川崎Fが奪われたCKからの失点のうち、明らかに狙われたのがニアサイドに蹴られたもの。そういう訳で、この試合では、CKにおけるニアサイドでの攻防が1つの見所になるかもしれない。

最後にこれは余談だが、川崎Fは木曜日の練習前にミーティングを開き庄子春男GMが現職としては2度目の激を飛ばしている。選手を前にした庄子GMは「こういう時に大事なのは、原点に帰ること。ブレないこと。そういう意味で1つになろう」という趣旨の話をしたという。このGM直々の激が選手たちに危機感を植え付ける事ができたのかどうか。結果は土曜日の15時にはわかる。率直に言ってチームの勢いは仙台が上回るが、川崎Fとしてもここでズルズルと負けるわけにもいかない。そういう意味で、気持ちのこもった激しい試合になるはずだ。

以上

2013.04.19 Reported by 江藤高志